2024年5月2日木曜日

ザ・フィフティーズ1: 1950年代アメリカの光と影 (ちくま文庫 は 46-1) | デイヴィッド ハルバースタム, Halberstam,David, 利哉, 峯村 |本 | 通販 | Amazon

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2015年12月16日に日本でレビュー済み
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ピューリッツァー賞の受賞者でもあるアメリカのジャーナリスト、デイヴィッド・ハルバースタム(1934 - 2007)の大著 "The Fifties"(1993)の邦訳書。原著は1巻本だけれど、筑摩書房版の邦訳は3分冊。本巻はその第1巻で、 『ザ・フィフティーズ2』 、 『ザ・フィフティーズ3』 と続く。
巻末には、文化研究家の越智道雄と映画評論家の町山智浩の対談つき。

急速な経済成長をとげた1950年代アメリカにおいて、現代にまでいたる消費社会の礎が築かれた。反対に、その繁栄の裏側には、冷戦、核兵器、人種差別、女性差別、"性" の抑圧といった問題がひそみ、60年代に表面化することになる。著者の狙いは、そうした50年代アメリカ社会の光と闇を明らかにすることである。

以下は第1巻の目次。
序章
1. ルーズヴェルトからトルーマンへ
2. 原爆から水爆へ
3. マッカーシズム
4. 朝鮮戦争
5. ダグラス・マッカーサー
6. 水素爆弾
7. 中国参戦
8. ゼネラル・モーターズの勃興
9. 一戸建てを大量生産する
10. ディスカウントショップ
11. マクドナルドのハンバーガー
12. ホリデイ・イン
13. ラジオからテレビへ
14. テレビと政治
15. 『アイ・ラブ・ルーシー』
16. 共和党と民主党
17. テレビという戦場
18. ドワイト・アイゼンハワー
19. 『欲望という名の電車』
20. キンゼー・レポート
21. 産児制限
22. ビート世代
解説対談 50年代アメリカの虚像と実像⑴ 越智道雄 × 町山智浩

解説で町山氏が「ハルバースタムは時代を俯瞰で見るマクロな視点よりも、一人一人の人生を掘り下げるミクロな視点で描こうとする」と指摘するように、本書では50年代アメリカ史を彩る人物たちの様々な物語をたくみに織り交ぜることで、当時のアメリカの姿があぶり出されていく。
マッカーサー、トルーマン、マッカシー、リチャード・ニクソン、"原爆の父" オッペンハイマー、"水爆の父" テラーといった政治・軍事・科学史を代表する人々が、互いに憎しみや恨みを抱えながら丁々発止と切り結ぶ様を描く語り口は、さながら大河小説のよう。

車、住宅、ディスカウントショップ、マクドナルド、モーテルなど、大量生産時代から大量消費時代へと移り変わりを象徴する商品も、産業界の大立者たちの人物像を浮き彫りにしながら考察されている。とくにゼネラル・モーターズのデザイナー、ハーリー・アール。機能ではなく新規のデザインを次々に打ち出すことで消費者の欲望を絶えず生み出す彼の手法は、まさしく消費社会の雛形をかたちづくったと言えるだろう。

多角的に証言が引用されるため、ある箇所では好意的に描写された人物が、ほかの箇所では好ましからざる人物として描かれていたりする。脱線も多く、話運びも直線的には進まない。けれど脇道にそれた話も興味深いし、一面的な見方を拒否しようとする著者の姿勢にも好感がもてる。
一方的に非難される人物も登場しない。たとえば、密告の応酬を呼びこみ仲間内に疑心暗記を植えつけたアメリカの汚点である "赤狩り" において、その汚名すべて背負わされたマッカーシー。そんな彼に対しても著者は、「マッカーシーの功績を挙げるとすれば、同胞たちの小心ぶりを暴き出したことだろう」(p.406)と、ちょっとしたフォローを入れている。

また、本書は細かく章分けされているものの、各章が独立しているわけではなく、連続している。たとえば、アメリカの政治と社会に絶大な影響をおよぼしたテレビの台頭は、複数の章をむすびつける重要なファクターとなっている。
劇作家テネシー・ウィリアムズ、演出家エリア・カザン、俳優マーロン・ブランド。映画『欲望という名の電車』を軸にして、突出した個性をもつ彼らの物語が重なり合う章もおもしろい。それだけでなく『欲望という名の電車』に秘められた "性" にまつわる革新性が、当時のアメリカ社会でタブーとされた性事情を暴き出したキンゼー博士の物語へと、そして経口避妊薬の研究にまつわる物語へと続いていく。

本巻の最後を飾るのは、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズ、ジャック・ケルアックら、ビート・ジェネレーションの面々の物語。社会が発展し生活が豊かになる一方で、そんな社会に閉塞感や不満を抱く若者たちは、60年代に爆発するカウンターカルチャーを準備することになるのだ。

解説では越智氏と町山氏により、著者ハルバースタムの論に補助線が引かれている。50年代の政治・軍事・文化が40年代から何を引き継いだのか、そして60年代へと何を受け渡したのか。それらを俯瞰的な視点から説明されるほか、内容の簡単な補足もされている。

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