2025年2月11日火曜日

「硯石」諏訪大社本宮の磐座《諏訪七石》

「硯石」諏訪大社本宮の磐座《諏訪七石》

硯石(諏訪七石)

諏訪七石の一つ「硯石」

 東西宝殿の間に建つ四脚門を透かすと、正面の脇片拝殿の屋根上に、瑞垣で囲われた大岩が見えます。これが「硯石(すずりいし)」で、「諏訪七石」の一つに数えられています。

四脚門から硯石を見る '10.5.5

 硯石は、現在の神楽殿─御柱─東西宝殿─四脚門ライン上に絶好の位置を占めています。そのため、「○○ライン」が好きな方ならすぐに飛びつくでしょう。しかし、現状では、同じ諏訪七石の一つである「御沓石」と同じ位置づけになっています。
 その要因は、"絶好の位置"にあることから来る過大評価でしょうか。見る人にそれ以上の価値を植え付けているのは間違いありませんが、やはり、ただの諏訪七石の一つに過ぎないということになるのでしょう。

『諏方大明神画詞』に見える「硯石」

 中世の古文献を見渡しても、硯石を祀る記述はありません。「昔は硯石は無かった」と思えるほどです。
 その中で唯一登場するのが、『諏方大明神画詞』に出る以下の記述です。

七夕、本社饗膳穀(梶)葉を以て至要(※極めて重要)とす、社の砌(みぎり)なる硯石にもおく、

 しかし、「磐座を祀る重要な神事のカギが」と読み直すと、ついでのような扱いをしています。ここに現代の辞書を持ち出すのは不適切かもしれませんが、『コトバンク』では

みぎり【砌】《「水限(みぎり)」の意で、雨滴の落ちるきわ、また、そこを限るところからという》

2 軒下や階下の石畳。
5 水ぎわ。水たまり。池。 (以上抜粋)

ですから、決して一等地にあるとは言えません。そのため、「七夕→梶の葉に和歌を書く→筆と硯」という連想から、たまたまあった「硯に似た石」にも饗膳の一部を供えたという解釈ができます。

『上社古図』に見る硯石

 江戸時代初期の様子がわかる神長官守矢史料館蔵『復元模写版上社古図』では、硯石は拝幣殿より奥に描かれています。
 絵図では距離・方角の正確さは期待できませんが、それにしても現在の位置からは大きく離れ過ぎています。ところが、この場所は「外籬(垣根)の屋根から雨垂れが落ちる場所」ですから、『諏方大明神画詞』で言うところの「砌」にピタリ符合してしまいます。
 こうなると、よく見られる「鳥居格子の向こうに磐座硯石を置く」のは見当違いということになります。何より、硯石は山の斜面上にありますから、とても上壇とは言えません。

硯石は嵩上げされた

 「硯石は、最近嵩上(かさあ)げされた」と書いた本があります。「磐座に(人間が)手を付けることはあり得ない」と半信半疑でしたが、それは事実でした。
 平成21年元旦の若宮社で、著作を多数出している郷土史研究家と偶然に会いました。平成19年9月以来2度目の出会いでしたから、まさに諏訪明神のお導きとしか思えませんでした。その彼から見せてもらった写真の中に、「硯石(もしくは、脇片拝殿)改修工事」がありました。

 写真は、蛙狩神事の一コマです。「工事中の写真」では正面の脇片拝殿は解体されて存在していませんから、硯石の基部がすべて露わになっています。それに写っている硯石の大きさは「現在見えている範囲とほぼ同じ」でした。
 私は斉庭の基部からそそり立つ巨石と思っていましたから、どちらかといえば扁平な姿に、なぜ「硯」と呼ばれているのか無理なく理解できました。上から撮った写真には、偶然か故意か、凹面には墨を模したような石も置かれていました。

 気になるのは嵩上げした理由です。端的には「見えるように」ということらしいのですが、"公式な経緯(いきさつ)"はわかりません。写真には、一本の細長い石が頬杖(ほおづえ)のように下から支えているのが見えますから、重文に指定された脇片拝殿を硯石の滑落から守るために、「ずり落ちた分を元に戻した」とも考えられます。

 硯石の全容(大きさ)を見たことで移動が可能であることを知り、『上社古図』に描かれたように、江戸時代以前には現在の場所より奥にあって人目に触れなかった可能性が出てきました。そのため、諏訪大社上社の「参拝ライン」に、もっともらしくこの石を使うのは控えたほうが"安全"という結論に至りました。

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