牛頭天王之祭文口語訳
良い御神酒をお供えし、何度も礼拝いたします。
謹んで、お迎えいたします。第一の(王子)は生広天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第二の(王子)は魔王天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第三の王子は倶摩羅天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第四の王子は達你迦天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第五の王子は蘭子天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第六の王子は徳達天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第七の王子は神形天王と申します。
謹んで、お迎えいたします。第八の王子は三頭天王と申します。
慎しみ敬って、お供えして礼拝し、お酒を捧げます。そもそも昔より伝えられている
武荅天神の誓願の物語りによりますと、ここより
北にケイロ界と云う所があります。そしてそこを治めている方は白きの
まだお后がお決まりにならない時、南天竺
から山鳩が一羽飛んできて、天王の御前の
梅の木の枝に羽を休め、さえずっていました。
その時、牛頭天王はそっと出て、さえずりをお聞きになりました。それによると「釈迦羅龍宮には龍王の王女がいらっしゃいます。その姿はたいへん美しくて
そなえられています。その王女こそ定めし牛頭天王の后に
ふさわしいでしょう」というのです。その時に天王は不思議な
路にあこがれ、南海の方面をめざして出発されました。
午後も遅くなりますと、天王はお疲れになられ、
そのうち日も早く暮れてしまいました。ちょうどそこにたいそう富んだ
天王はお立ち寄りになられ、一夜の宿を頼みましたが、「貸す宿はない」と
断られました。天王がふたたび「宿をお貸しくだされ」と頼むと
小丹長者はたいへん怒って仲間や
一族で天王を追い出してしまいました。天王の望みはかなわず、
小松の中にお隠れになられました。その後に下女が出て来ましたので、その下女に「お前さん、私に宿を貸してくれんか」と天王はおっしゃりました。下女が答て言うことには、「私は小丹長者の家の者です。この人は自分が
お金持ちのため人の悲しみがわからず、道行く人を
気の毒に思う事もありません。お宿をお貸しすることは簡単ですが、
こうした事情でお宿はお貸しできません。ここから東方に
一里ほど行ってお宿をお借りなされ」と申しました。行って
みると、松の木が四十二本ある所に、一ヶ所の
木陰がありました。ここに立寄って宿を借りることにしました。その時、
女が出てきて答えて言うことには、「私が人間の者と見えましょうか。
雨風を着物として、松の木を本体として
過ごしてきた者です。これより東に一万里ほど行きますと、親切な
人がいます。そこでお宿をお借りなさいませ」と申しました。それでそこへ行って
宿をお借りになられました。すると蘇民将来という者が出てきて言うことには、「私は
一人前の人間の姿をしていますが、たいへん貧乏で身分が低く、
一夜の宿の食事とすべきものも、
あなたのような方をお泊めするところもございません。」と申しました。牛頭天王が
重ねて、「ただ宿をお貸しいただければ、それでけっこうです。何も気になりません。
あなたが食べる食事をいただければけっこうです」と言われました。すると蘇民将来は
住んでいる所をかたづけて粟がらを敷き、ほした
莚を敷いて牛頭天王の休みどころとしました。また粟の飯の夕
飯でもてなして、その心を安らかにしてあげました。その夜も
ようやく明けて、さあ出発という時に、
蘇民将来が、「あなた様はどちらへいかれますか」
と申しますと、牛頭天王はおっしゃいました。「私は釈迦羅龍
宮の姫君の婆梨妻女という人を恋
してしまった。そこで南海の方面をめざして旅行している者です。ところが、
小丹長者が宿を貸してくれなかった。その恨は大きい。
だから小丹長者を罰してやりたい。将来には、
すると蘇民将来は、「小丹長者の嫁は、自分の
娘です。小丹長者を罰しなさるとも私の
娘はお除きください」と頼みました。「それは
作り蘇民将来之子孫也と書いて、
男は左側、女は右側にかけておきなさい。それを目印として
許してやろう」といわれました。そして古丹長者を罰して
やろうと、牛頭天王は南海をめざして出発されました。
その後、釈迦羅龍宮の姫君に出会い結婚されて、
十二年のうちに王子を八人もうけて
帰国されました。その仲間、従者は
九万八千人もありました。古丹長者はこのことを
聞くと、魔王が通るといって、四方に鉄の塀
を築いて、上空には鉄の網を張り、屋敷を守り固めて、
おりました。また蘇民将来はこれを聞いて、金の
宮殿を造って、待っておりました。牛頭天王はこれをご
覧になられて、「これはどうしたことか」と問いたずねました。蘇民将
来は答て、「あなた様がかつてお通りなされた後、天より宝が
降り、地より泉がわき出でて、あらゆる珍しい宝物で
いっぱいになりました。それであなた様を三日間お泊め申し上げたいのです」と
申しました。そんなわけで、天王はそこに三日間お泊まりになられ、古丹長者の所ヘ
使者を送り、様子をうかがわせたところ、四方と天地を封鎖して
入ることもできないと言います。その時、天地に咲く
流れている所がありました。そこから侵入して、九万八千の
従者達によって、七日七夜のうちに小丹長者の一族を滅ぼして
しまいました。その後「小丹長者の子孫という者は、
一人も生きることはできない」とおっしゃられました。またその時より蘇民
身も心も安穏で、長命になり、幸福が増しますように。
子孫は繁昌しますように。ことに邪気、怨霊、呪詛が
一万里のはるか遠くにおい払われますように。牛頭天王、婆梨采女
仲間や従者よ、あわれみを垂れ、願いをお聞きください。
敬って申し上げます。重ねて礼拝いたします。 上等な酒を散らしてお供えします。
謹んでお願いします。頭や五体の病は、武荅天神に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。口の病は、婆梨細女に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。足の病は、太郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。腹の病は、次郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。喉の病は、三郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。胸の病は、四郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。手の病は、五郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。腰の病は、六郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。モモの病は、七郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
謹んでお願いします。膝の病は、八郎の王子に平癒のお願いを申し上げます。
右白虎、前朱雀、後玄武よ。
文明十二年(1480年)庚子 十一月二十八日 書き写し終った
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