2024年10月14日月曜日

古代史サイエンス:現代日本人は縄文人の直系の子孫なのか? — 金澤 正由樹 | アゴラ 言論プラットフォーム

古代史サイエンス:現代日本人は縄文人の直系の子孫なのか? — 金澤 正由樹 | アゴラ 言論プラットフォーム

古代史サイエンス:現代日本人は縄文人の直系の子孫なのか? --- 金澤 正由樹

gorodenkoff/iStock

2022年のノーベル賞は古代人のゲノム解析に

2022年のノーベル生理学医学賞には、スウェーデンのスバンテ・ペーボ教授が決まりました。

受賞の大きな理由は、ネアンデルタール人のDNAが現代人に受け継がれていることを発見したことです。その後、彼が生み出した古代人のゲノム(DNA)解析の手法は、世界中で広く使われるようになりました。

縄文人と弥生人のゲノム解析の結果

2019年になると、日本でも国立科学博物館を中心としたグループが、約3800年前の縄文人女性の全ゲノムの解読を試み、見事に成功を収めています。以下はプレスリリースからの抜粋です。

遺伝子から続々解明される縄文人の起源~高精度縄文人ゲノムの取得に成功~(国立科学博物館 プレスリリース 2019年5月13日)

独立行政法人国立科学博物館(館長:林 良博)の研究員を筆頭とする国内7研究機関11名からなる共同研究グループが、北海道礼文島の船泊遺跡から出土した約3,800年前の縄文人の全ゲノムを高精度で解読しました。この結果、古代日本人DNA研究が大きく進み、日本人の起源が解明されることが期待されます。

その後も、日本各地で古代人のDNAが続々と調査され、縄文人が弥生人に変容した過程が徐々に解明されつつあります。鳥取県では、これらの結果をコンパクトな冊子にわかりやすくまとめました。

下の図では、物理的な距離が近いほどDNAが類似していることになります。

図1
出典:とっとり弥生の王国 2021 Autumn 鳥取県発行

結果は見たとおりで、弥生人のDNAは現代日本人とほぼ同じですが、なぜか約6000年前(縄文時代)の朝鮮半島南部人(釜山近くの獐項遺跡)ともほぼ一致していました。

7300年前の鬼界カルデラ大噴火の影響か

これは、薩摩半島の南方50kmにある鬼界カルデラが約7300年前に大噴火し、分厚い火山灰で南部九州の縄文人は壊滅したものの、かろうじて生き残った北部九州の縄文人が朝鮮半島南部にまで避難し、その後に北方から来た中国大陸人と混血した…という驚くべき歴史があった可能性を示しています。

図2 鬼界カルデラ
出典:Wikipedia

このことは、それまで無人に近かった朝鮮半島南部で、7000年前を境に遺跡が増えてくる事実とも整合的です。数は少ないのですが、現地では縄文土器も発見されています。

現代日本人・韓国人・中国人のゲノム解析の結果

あまりにも衝撃的だったので、自分でもオープンデータとAIを活用してゲノム解析を行い、その結果を論文(プレプリント=査読前論文)という形にまとめて発表することにしました。

データを素直に解釈する限り、やはり現代韓国人のDNAは現代日本人と現代中国人の中間で、その他にも多少は北方系の人間の影響が見られるようです。言い換えれば、韓国人は日本人と中国人の混血である可能性が高いことになります。

図3
出典:執筆者の論文(プレプリント)

韓国人のDNAが日本人と中国人の中間であることは、韓国人1000人以上のデータでも裏付けられています。

図4
出典:Korean Genome Project

Y染色体とミトコンドリアのハプログループの比較

これらの結果は、Y染色体の分析とも一致します。というのは、Y染色体は父親からしか遺伝しないため、特徴的な型(ハプログループ)を調べれば父方のルーツをどこまでもたどること可能だからです。

幸運にも、なんとか古代朝鮮半島南部人のY染色体のハプログループを調べた論文を入手することができました。

遺跡の場所は慶尚南道金海市・大城洞で、時代は4~7世紀とあり、この地域が当時は伽耶(任那)であったことが明記されています。

興味津々でデータを見てみたところ、ハプログループが判明した3体のうち、1体は「D1b1」(現在はD1a2aと改称)という縄文人特有とされるもの(弥生人にもある)で、もう1体の「O1b2a1a2a1b1」も縄文人特有と考えられるもの(弥生人にもある)であり、残る1体は不明でした。

つまり、この遺跡でY染色体が判明した2体は、両方とも縄文人か、父方が縄文人であることになります。また、母方から受け継がれているミトコンドリアのハプログループについても、8体中4体は日本でもよく見かけるものでした(黄色)。

図5
韓国の論文(プレプリント)の付属資料

縄文人特有とされる「D1a2a」は、現代日本人でも30%以上であり、多数派の1つを構成していますが、現代韓国人では1%程度と極めて少数です。このことは、過去の朝鮮半島南部において、戦乱などにより特定の男性グループのみが(逃亡・殺害などにより)減少した可能性を示しています。

その典型が現在の南米で、父親から受け継ぐY染色体のほとんどがヨーロッパ人由来なのに対して、母親のみから遺伝するミトコンドリアは現地人からのものが多数のようです。

一方、現代日本人のY染色体のハプログループは、縄文人から受け継いだ「C1a1」「D1a2a」「O1b2」を合わせると、全体の約7割です。

なお、O1b2の起源は約8000年前とされ、当時ほぼ無人だった朝鮮半島で発生したとは思えません。また、韓国で発見されるO1b2は、時期的に日本より新しいとされています。

図6
出典:拙著「古代史サイエンス」より

現代日本人の多数は縄文人の直系の子孫

このことは、古代日本には大規模な戦乱がなかったという考古学的な知見とも一致します。ということですから、最新のゲノム解析の結果によれば、現代日本人のDNAの7割程度は縄文人由来ということになります。

よって、現代日本人の多数は縄文人の直系の子孫と言ってよいのではないでしょうか。

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金澤 正由樹(かなざわ まさゆき)
1960年代関東地方生まれ。ABOセンター研究員。社会人になってから、井沢元彦氏の著作に出会い、日本史に興味を持つ。以後、国内と海外の情報を収集し、ゲノム解析や天文学などの知識を生かして、独自の視点で古代史を研究。コンピューターサイエンス専攻。数学教員免許、英検1級、TOEIC900点のホルダー。

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