2020年正倉院展と当時の様子から今思うこと。
【正倉院と薬物】2020年の正倉院展は 10月24日(土)~11月9日(月)まで **今年は完全予約制です**実家の近所にあることから、遥か昔ティーンの頃には「近所に日本で一番古い倉庫があるねん~。」
だなんて酷い事を言っていたプロデューサーの橋本です。(大変失礼いたしました。)
そんな正倉院が、漢方や薬草の仕事に携わるようになってどれだけ重要な建物かを再認識した次第です…。
さて、正倉院ですが奈良時代に建立された東大寺の倉庫で、聖武天皇の遺愛品を中心に約9,000件の宝物が現在まで大切に保管されています。楽器、伎楽面(ぎがくめん)、遊戯具(ゆうぎぐ)、調度品、佩飾品(はいしょくひん)、染織品、文書・経巻など、様々な宝物がおさめられていますが、今回注目したいのが正倉院薬物。
正倉院薬物を語るにあたって、まず外せないのが光明皇后の存在です。皇后は人々への慈愛心が強く、貧しい病人に施薬や施療をするための施薬院(せやくいん)や、貧窮者や病人、孤児などを救うために悲田院(ひでんいん)を創設しました。
聖武天皇が大仏開眼からわずか4年で崩御されたため、皇后はたいそうお悲しみになり、もともと体が丈夫でなかった天皇を心配してさまざまな薬物を揃えていらっしゃいました。皇后は、天皇の遺愛品とは別に正倉院に薬物も納めました。「東大寺献物帳」のなかの一巻である「種々薬帳」には、献納した60種類の薬物名と、その数量および質量などが列記されています。
「種々薬帳」に記載されている60種類の薬物のうち、約40種類が正倉院に現存し、約1250年前の薬物として、他に例をみない貴重な資料とされています。植物をはじめ珍しい動物や鉱物などを、シルクロードを通じて唐や新羅、東南アジアなどからも取り寄せていたことをうかがい知れます。その中には現在でも漢方薬に配合される大黄、人参、甘草、厚朴や、桂心(肉桂・ニッケイ)なども見られます。
そして巻末には、「病に苦しんでいる人のために必要に応じて薬物を用い、服せば万病ことごとく除かれ、千苦すべてが救われ、夭折(ようせつ)することがないように願う」といった願文が記載されています。実際に、願いどおり薬物は持ち出されて病人を救うために役立てられたと言われています。
今回の正倉院展では、皇后が献納した薬物から8種が展示されるほか、由緒は不明とのことですが宝庫に伝わる薬物2種が出陳されます。
また、当時は今とおなじように疫病の流行った時代。飛鳥奈良時代の文献からは当時の
様子が見受けられます。出陳されている正倉院文書『周防国正税帳』(税の決算報告書)には
「疫病の流行で税の徴収が難しい」などと記されていたりも。そして当時も今と同じように
「身体を冷やさず飲食物に気を付けること」などが言われていたり、予防や治療に薬草を用いて
いたことが分かります。
1000年前の日本の暮らしの知恵の記録が、新型コロナが流行り混沌とする現代に何かを教えてくれそうです。
そして何よりも、種々薬帳の最終章の皇后のお言葉に現代の薬草使いが人々のお役に立てること、を考えずにはいられません。
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