2024年4月16日火曜日

【関西の議論】戦争と歴史に翻弄された「阿波おどり」の真実…開戦直前・幻の『阿波の踊子』の記憶 (2/4ページ) - 産経ニュース

【関西の議論】戦争と歴史に翻弄された「阿波おどり」の真実…開戦直前・幻の『阿波の踊子』の記憶 (2/4ページ) - 産経ニュース

戦争と歴史に翻弄された「阿波おどり」の真実…開戦直前・幻の『阿波の踊子』の記憶

 今年も阿波おどりの季節がやってきたが、太平洋戦争開戦直前の昭和16年、長谷川一夫や高峰秀子ら当時の大スターが出演した阿波おどりの映画が徳島でロケ撮影され、京阪神などで上映されたことはあまり知られていない。盆踊りが全国的に禁止された戦時下にあって映画は人気を博し、戦後もフィルムを短縮して公開されたが、現在は劣化して再上映は難しいという。戦争に翻弄され、何度も中止と再開を繰り返した阿波おどり。幻の映画は、そうした歴史を顧みる上で象徴的な出来事として記憶にとどめられている。

戦時下での撮影・上映

 昭和12(1937)年7月、日中戦争の発端となった盧溝橋事件が起こり、日本は戦時体制に入った。徳島県民も踊りに浮かれているわけにはいかなくなり、徳島観光協会は自発的に阿波おどりを取りやめた。8月13日付の徳島毎日新聞は「時節柄盆踊はとりやめ」などと報じ、以後、一般の盆踊りは厳禁になったという。

 東宝の長編映画「阿波の踊子」(マキノ正博監督)はそんな戦時下の16年4月に徳島市で撮影され、同年5月に公開された。阿波おどりのシーンが本格的にスクリーンに登場した初めての劇映画。当時大人気の俳優、長谷川一夫が主演を務め、高峰秀子や入江たか子、清川虹子ら豪華女優陣が脇を固め、長谷川らが実際に阿波おどりを踊った。

 映画は江戸時代前期の庄屋、阿波十郎兵衛物語をアレンジしたもので、徳島藩の悪家老によって無実の罪で処刑された十郎兵衛の敵を討つため、7年後に弟が阿波おどりの日に帰ってきて、踊りに乗じて本懐を遂げるというストーリー。

 当時の新聞(徳島毎日)などによると、ロケは4月16日から9日間に渡って、市内の助任(すけとう)川に架かる工兵橋(現、徳住橋)付近を中心に徳島中央公園、津田港などで行われた。富田、内町両検番の芸者衆を中心に、近所の若者らが踊り手などのエキストラとして動員されたという。

https://www.sankei.com/article/20140807-4XDPJ6URGZKOXL2BHYWPOVHWW4/3/

戦争と歴史に翻弄された「阿波おどり」の真実…開戦直前・幻の『阿波の踊子』の記憶

進駐軍の許可を得て再出発

 16年12月、日本軍による米・ハワイへの真珠湾攻撃で太平洋戦争が開戦。当初の戦勝ムードに加え、映画の人気もあり、市民の間では盆踊り再開への機運が高まり、17年8月に阿波おどりは再開された。

 しかし戦局は次第に悪化。それに伴い踊りも縮小され、日本の敗戦が色濃くなった19年には再び中止され、翌年終戦を迎えた。

 書籍「阿波おどり研究」(板東●(=折の下に心)夫編集)によると、終戦後は「何はなくとも明朗に」「今年の盆は踊り次第」と、市民の阿波おどりへの欲求が膨らみ、県が連合国軍総司令部(GHQ)と再開について折衝を重ねた。その結果、21年8月、踊りは復活。当時は食糧の配給はほとんどなく、市民らの多くはイモを植えたり、野草を食べるなどして暮らしていたが、阿波おどりの再出発には歓喜した。「久しぶりに踊れる。腹は二の次」と、焼け残った浴衣や長じゅばん、ももひき、寝間着などさまざまな衣装で大勢の踊り手が街に繰り出したという。

踊り続けて70年

 四宮さんも、踊りの復活を喜んだ。現在は総合食品卸会社の会長を務める四宮さんは14歳のとき、学徒動員で満州(現在の中国東北部)に赴き、南満州鉄道株式会社が募集した鉄道学校に入り、客車や貨車を検査する検車区に配属された。20年8月の「終戦の日」の朝に赤紙(召集令状)が届き、午後、入隊準備の荷造りをしていた時に日本の敗戦を知った。

https://www.sankei.com/article/20140807-4XDPJ6URGZKOXL2BHYWPOVHWW4/4/

戦争と歴史に翻弄された「阿波おどり」の真実…開戦直前・幻の『阿波の踊子』の記憶

 21年5月に帰国。8月に復活した阿波おどりを見物し、遊べない青春を送ったこともあり、「楽しみたい」と我流で踊った。23年からは「連」に入って本格的に踊りを開始。昨年までは、踊り手グループ「娯座留(ござる)」の連長を務め、現在は70歳以上のメンバー10人で発足した「阿呆の介」の世話役を務める。

 また、13年前から阿波おどりにちなんだ言葉を短冊に毛筆で記す「楽(らく)書き」も楽しんでいる。「史産を遺産に 阿波の風情と余韻を今に残せし盆踊り」「世界に羽ばたく平和な踊り。今に残せし盆踊り」など、楽書きは年間約5600枚も作るという。

 「戦前からの踊り手はもうほとんどいないが、阿波おどりの素晴らしさは年を追うごとに増している」

 こう語る四宮さん。阿波おどりは今年も12日から15日までの4日間、徳島市内で800以上の「連」が参加して行われる。

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