『阿波の踊子』
連日の神保町シアター、乙女特集。今日はマキノ正博の『阿波の踊子』。昭和16年の東宝。
冒頭、徳島の人形遣いによる、阿波の十郎兵衛の話から始まる。が、何故か十郎兵衛が海賊である、ということになり、それを聞いていた女の子が、「嘘、嘘」と抗議。その女の子が、高峰秀子。
実は十郎兵衛とは、人形浄瑠璃のそれではなく、徳島藩の悪家老によって殺された男で、その弟の長谷川一夫が、復讐のために阿波に帰ってくる、というお話。(長谷川一夫の役名も、「帰ってきた男」でしかなかった。)
短縮バージョンの上映で、特に殺された兄・十郎兵衛の経緯や入江たか子と長谷川一夫の関係が今一つわかりにくかったのだが、そんなことより、秀子嬢の可愛さが堪能できたことが大事。
窓辺で物思いに耽る長谷川一夫を観て、後からその仕種を真似してみせたり、阿波踊りの振りを披露。そのチャーミングさに、萌える。(ようやく「乙女映画」になった。)
ラストの阿波踊りの狂騒は、見事。
旅館の女中役の沢村貞子や清川虹子なども生き生きとしており、マキノ映画の活力を感じられた。
マキノ監督の自伝『映画渡世・地の巻』に、この映画のことが触れてある。
クランクインの当日には、彌三郎の手廻しと勇蔵の努力で大変な数の阿波女が集まった。阿波踊りは、見せ物化してしまった現在のように、男がひょっとこみたいな、変てこな、まるで見せ物小屋のお化けみたいな顔をして、先頭を切って踊ったりはしなかった。男達は、ただ、提灯あるいは高張提灯を持ってリードをし、三味、太鼓、笛の音に合わせて足を動かしていた。
そんな踊る女達の中に、私は、長谷川一夫に面をつけて踊らせてみた。これがすばらしく目立った。
(ちくま文庫、p87)
0 件のコメント:
コメントを投稿