「山車」の起源はノアの箱舟か?!
「神の救い」をテーマに掲げた祭事の背景
全国各地の祭りに活躍する「山車」
このような山車を使ったお祭り行事は、成田の祇園祭だけでなく、全国各地で開催されています。京都の祇園祭で人気を博している山鉾も山車の一種です。一般的には人形が飾られたり、人間が乗って綱で引かれる屋台を「山」、「山車」と言います。祇園祭の山鉾では、台の上に山のような形の造形物が載せられ、そこに御神体や真松が祀られた「山」と、壮麗な鉾やなぎなた等を立てた「鉾」をもって、「山鉾」と呼ばれ、祭行事のハイライトとなります。
全国各地の祭りで用いられている山車の起源はどこにあるのでしょうか。日本の土壌にしっかりと根付き、大衆に愛され、受け入れられている宗教文化のルーツを探ります。
平安時代に遡る「山車」の起源
「山車」の起源は少なくとも平安時代までさかのぼると言われています。大陸の宗教文化が日本へ紹介され、多くの僧侶がその影響を強く受けはじめた平安時代の末期、比叡山の山法師が日吉(ヒエ)神社のご神体を神輿に収めてそれを担ぎ、朝廷を訪れています。このような史実から察するに、平安時代には、神輿の中に神を迎え入れて移動するという発想が既に存在したと考えられます。
その後、中世にかけて宗教間の派閥争いが厳しくなる最中、どこにも負けない日本一の贅沢な祭りを行うことが、派閥争いに勝利する道であるというような発想が宗教家の中で広まったと考えられます。その結果、町衆を魅了する仕掛けが練られていくうちに、それまで人の手で担がれていた神輿が、いつしか祇園祭においては大掛かりな「山車」に変貌を遂げて、大衆に受け入れられるようになったと言われています。
「ダシ」の語源には定説がない
「山車」はなぜ、「ダシ」と読むのでしょうか。漢字表記から察するに、「ダシ」という言葉に「山車」が当てられたと考えられることから、まず、「ダシ」という発音の元来の意味を探ることが重要です。「ダシ」という言葉の語源は、「飾り物として出す」ことから「出し車」という言葉がつまってできたとか、屋台から装飾品の一部を垂らすように出してあったことに由来する、という説などがあります。これらの説はいずれも、「ダシ」を日本語として考え、「出る」「出す」という言葉に由来すると想定していますが、何を出すのかについては単なる憶測にしかすぎず、対象物が不透明なこともあり、信ぴょう性に欠けます。
その「ダシ」という言葉に「山車」の漢字を当てた理由としては、巨大な装飾品や飾り物を備えた車が山のように見えるから、というのがごく一般的な見解のようです。飾り物を神様への供え物と解釈し、それらを山のように積んでいる車だから、「山車」と呼ぶようになったということです。しかし、大切な奉納物である飾り物だけに、それらが山積にされた車をたとえ「山車」と表現できたにしても、それを「ダシ」と呼ぶのは不自然であり、根拠に欠けます。また、神の降臨する依り代(よりしろ)とも呼ばれる祭礼の山が、ご神体を移動する車に転じ、それが最終的に「山車」となったという学説などもありますが、これも同様に、何故「ダシ」という読みになったのかという説明に欠けています。 かまきりが乗る京都祇園祭山鉾巡行の蟷螂山
ヘブライ語で解明する「ダシ」の意味
「ダシ」という言葉は旧約聖書の創世記で使われていることから、その語源は聖書の言語であるヘブライ語に由来している可能性があります。「ダシ」の発音に酷似するヘブライ語は דשאと書きます。名詞ではdeshe(デシェ)と読み、地から芽生えた草、動詞ではdasya(ダシャ)となり、芽生えるという意味となります。よって、旧約聖書では「ダシ」という言葉は「若葉が地上に芽生える」というような意味で用いられています。大切なポイントは、「ダシ」という言葉が、神が成し遂げることに結び付いていることです。次の事例はいずれも、神が成されたことを表現しており、神によって草が芽生えたことを書き記しています。
「地は草を芽生えさせよ。種を持つ草と、それぞれの種を持つ
(創1章11節)normal
実をつける果樹を、地に芽生えさせよ。」
「乾ききったところを潤し、青草の芽がもえでるようにした」
(ヨブ記 38章27節)normal
「イザヤ66:14 あなたたちの骨は青草のように育つ」
(成長と繁栄)normal
山車にも神輿と同様の草花、動物、人形などの装飾が使われ、時には波さえ描かれることが多いのは、何故でしょうか。もしかして、創世記の1章11節に、海ができた後、地が創られ、草花が生えたことが記載されていることから、それらの出来事を印象づけているのではないでしょうか。時には海や草花だけでなく、その後、創造された動物も描かれていることから、山車の装飾は創世記に関連したモチーフを表現していると想定されます。
山車の起源はノアの箱舟?
また、ヘブライ語で若葉が芽生えるという意味の「ダシ」は、旧約聖書に記載されている「ノアの洪水」の話にも結び付いている可能性があります。大洪水で世界が水没した後、水が引いて陸地が現れ、 『方舟を出た後のノアによる感謝の祈り』ノアの箱舟から放たれた鳩が、「オリーブの若葉」を咥えて帰ってきたことが聖書に記されています。それは洪水の後に緑の地が生じ、そこにオリーブの若葉が芽生えたことを意味しています。ノアの洪水について記載されている創世記8章の中で、オリーブの若葉が記載されている箇所には「ダシ」という言葉は使われていませんが、乾いた地に芽生えたオリーブの葉を鳩が運んできたことは重要です。何故なら、その「芽生えたオリーブの葉」は、人類の救いのサインだったからです。
洪水の後、人類が救われるかどうかは、地に草木が芽生えるかにかかっていました。そして船から降りて、再び地に足をつけるためには、緑の陸地が切望されました。そのきっかけをもたらしたのが「ダシ」、すなわち若葉の芽生えでした。そして地に降りたノアの一族は生きながらえることができ、人類の新たなる歴史が始まったのです。それ故、「山車」の語源をヘブライ語で若葉の「芽生え」を意味する「ダシ」と仮定するならば、それは単に、地に草木が芽生えて緑が増えるということだけでなく、地表が現れてオリーブの若葉が芽生え、人類の救いに繋がったことも示唆していたのです。神が最初に海を創られてから地ができ、その後、人類が誕生したように、ノアの洪水の時も一旦はすべて海になっても、その後、「ダシ」、すなわち若葉が芽生え、人類の新しい歴史がはじまったのです。
「ダシ」に「山車」の漢字が当てられた理由
ヘブライ語で青草が芽生えることを意味する「ダシ」とう言葉に、「山車」という漢字が当てられたのは、大洪水からの救いが山の上から始まったからとは考えられないでしょうか。山上の船の上から若葉の芽生え、ダシを確認し、その箱舟から地上に降りる決断がくだされたのです。そして多くの私財が船から運び出され、車に乗せられて地上に運ばれたことでしょう。
「ダシ」とは芽生えのことであり、人類の救いに結び付く大切なシンボルでした。そして山の上で救われた結果、車を使ってさまざまな資材、動物が運びだされたことでしょう。それ故、「ダシ」、救いのイメージには「山車」という漢字が良くフィットします。祇園祭で用いられる「山車」の根底にあるテーマは「神の救い」であり、水没した大地に再び芽生えた若葉(ダシ)こそ、まさに新しい時代の始まりの象徴だったのです。
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