実は『ツィゴイネルワイゼン』に始まる大正3部作も「演歌」ものだと思うんですよね。
そして、『肉体の門』、『春婦伝』、『河内カルメン』(1966年)の「野川由美子3部作」は、女の情念を描いた「ド演歌」。
この映画の清順美学は、ただの「ワケワカラン」ではなく、心動かされるものがあります(多少過剰な面も否めないけど)。
「野川由美子3部作」はもっと評価されていい。
映画『春婦伝』 野川由美子3部作はもっと評価されていい(ネタバレ感想文 )
鈴木清順好きだってことは以前も書きましたっけ?
きっかけは大学生の時に観た『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)。
『ミツバチのささやき』(73年)は生涯一の「最愛映画」ですが、
『ツィゴイネルワイゼン』は生涯一の「偏愛映画」。
この『春婦伝』は、40年近く前(清順初心者だった頃)に深夜の地上波放送で鑑賞し、その後2006年にケーブルテレビで再鑑賞して以来の再鑑賞。
そして、初の映画館での鑑賞。
たぶん最初はエロ目的での鑑賞だったと思うけど(笑)、二度目の時は(結果、遺作となった)『オペレッタ狸御殿』(05年)公開記念で、特集放送されてたんじゃないかな?
お前の思い出話なんか興味ねーよって話なんですが、何でこんな昔ばなしをしているかと言うと、この2006年当時、私は「DVDの発売はおろかビデオの再販もない埋もれた清順作品」と書いていたんです。
今はどうなのかな?アマプラで観られるのかな?
勝手な推測ですが、その理由は、野川由美子演じる主人公が「従軍慰安婦」だからではないでしょうか?
従軍慰安婦強制連行問題が表面化するのは1980年代ですからね。
製作時はともかく、後々は、なかなかの「政治問題」だったと思います。
従軍慰安婦が出てくる映画で他に思いつくのは、岡本喜八の『独立愚連隊』(59年)がありますね、主人公じゃないけど。いずれにせよ80年代以前。
岡本喜八も鈴木清順も徴兵された「戦中派」ですから、当時の描写がリアルなんですよ。「戦場」ではなくて「銃後」の描き方がリアル。
口先だけの安易な「反戦」を唱えたりしませんしね。
小林正樹の『人間の條件』三部作(59-61年)とか観ちゃったら、今時の反戦映画なんかファンタジーに観えちゃうもん。
田村泰次郎という作家の原作だそうで、この前年にやはり野川由美子主演で鈴木清順が撮った『肉体の門』(64年)も同じ原作者なんですね。
で、この『春婦伝』、同じ原作を『暁の脱走』(50年)というタイトルで映画化しているそうで、監督は谷口千吉。後の八千草薫の旦那。
それこそ、岡本喜八が助監督で師事した監督じゃないかな。
で、まあ、何が言いたいかというと、『暁の脱走』ではGHQの指導で「娼婦NG」だったとかで、「慰問団の歌手」に置き換えられているそうです。
で、『春婦伝』では「日本人」の従軍慰安婦。
でも、原作の主人公は「朝鮮人の従軍慰安婦」なんだそうです。
この原作のことを知って、ちょっと腑に落ちたんです。
ちょっとこの野川由美子演じる主人公は、「当時の」日本人女性としては、かなり「異質」だと思ってたんです。
「したたかに生き抜く」女性像は見たことありますが、男や権威(=軍人)相手に、こうも正面から「楯突く」女性キャラはあまり見たことがない。
でもそれが(本来は)外国人だというなら、納得がいく気がします。
最後にもう一つ。
鈴木清順作品は、『殺しの烙印』(67年)に代表される「摩訶不思議(ワケワカラン)」が清順的に思われがちで、なんなら清順自身も晩年はそれを意識していたんじゃないかと思うほど、『ピストルオペラ』(2001年)、『オペレッタ狸御殿』は「摩訶不思議(ワケワカラン)」清順ワールド。
正直私は、鈴木清順のモノマネで佐藤清順とかいう人が作ったんじゃないかと思うほど、清順ワールドに寄せた清順ワールドの印象でした。
そして私は、清順好きですけど、『殺しの烙印』をはじめとするこの路線はあまり好きじゃない。
実は根底が「演歌」な清順が好きなのです。
いや、鈴木清順は(日活にいたせいもありますが)「アクション」「任侠」「オペレッタ」が多いんですけど、意外と「(女の)情念」を中心に据えた「演歌」も得手なんですよ。
実は『ツィゴイネルワイゼン』に始まる大正3部作も「演歌」ものだと思うんですよね。
そして、『肉体の門』、『春婦伝』、『河内カルメン』(1966年)の「野川由美子3部作」は、女の情念を描いた「ド演歌」。
この映画の清順美学は、ただの「ワケワカラン」ではなく、心動かされるものがあります(多少過剰な面も否めないけど)。
「野川由美子3部作」はもっと評価されていい。
(2023.09.10 神保町シアターにて鑑賞 ★★★★☆)
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