2024年3月4日月曜日

真田広之「SHOGUN 将軍」、裏側の闘い語る ─ 「この作品をニューノーマルに」「今時、これくらいやらないと恥ずかしいのだと」【単独取材】 | THE RIVER

真田広之「SHOGUN 将軍」、裏側の闘い語る ─ 「この作品をニューノーマルに」「今時、これくらいやらないと恥ずかしいのだと」【単独取材】 | THE RIVER
真田広之「SHOGUN 将軍」、裏側の闘い語る ─ 「この作品をニューノーマルに」「今時、これくらいやらないと恥ずかしいのだと」【単独取材】 | THE RIVER
https://theriver.jp/shogun-sanada-interview/

真田広之「SHOGUN 将軍」、裏側の闘い語る ─ 「この作品をニューノーマルに」「今時、これくらいやらないと恥ずかしいのだと」【単独取材】

「SHOGUN 将軍」真田広之 単独インタビュー取材
©︎THE RIVER
ヘアメイク:高村義彦(SOLO.FULLAHEAD.INC)

真田広之が初めて主演とプロデューサーを務める、ディズニー傘下の「FX」が制作するハリウッドドラマ「SHOGUN 将軍」が、ついにディズニープラス「スター」で配信開始となった。1975年に米刊行され、1980年にはドラマ化もされたジェームズ・クラベルの小説「SHOGUN」を再映像化する野心作だ。

ハリウッド作品における日本は、これまで誇張や偏見、誤解に満ちた描写がなされることが常だった。しかし本作では、初めて真田がプロデューサーとして監修に入り、細部まで忠実な再現が徹底された。結果として本作は、ハリウッドが初めて日本描写に本気で取り組んだ作品として、歴史的な偉業を成し遂げている。

その裏で、真田にはどのような思いが、どのような苦労があったのか。知られざるエピソードを、真田はTHE RIVERの単独取材で明かした。

SHOGUN 将軍
(c) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

当初は俳優としての出演オファーだった。真田が出演した2007年のイギリス・アメリカ合作映画『サンシャイン 2057』を製作したアンドリュー・マクドナルドからの連絡だ。「SHOGUN」の企画を進めているのだが、主人公の虎永役を演じてほしい、と打診を受けた。

マクドナルドは企画を米FXに持ち込んだ。真田はマクドナルドやFXの人々とランチミーティングを行い、この作品の構想を聞いた。「自分が関わるのなら、ちゃんと日本人の役に日本人を使ってくれるのか。戦国時代を再現するなら、日本からクルーを呼べるのか。そうであれば考えたい。おかしなものを作るのなら、自分は日本人として参加できない」。ハッキリそう伝えた。

後日、FX側から、真田の要望に応えたいと連絡があった。それでは、お引き受けしましょう。こうして俳優としての真田の参加が定まった。しかし、それから監督探しや脚本構想などで紆余曲折し、数年が経過した。もともと2019年の撮影開始予定だったが、品質追求のため一旦取り下げ、一からのやり直しを経ている。

そこで新たにプロデューサーとして加わったのが、この度真田と共に来日し、THE RIVERのロングインタビューで誠実な想いを語ったジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウである。二人は日本文化を深く尊敬しており、本物志向の作品を作ることを志していた。真田さん、プロデューサーも兼ねてくれませんか。ジャスティンから打診があった。「望むところです」。こうして「SHOGUN 将軍」は、プロデューサー・真田広之と共に新体制で再スタートした。

ジャスティンとレイチェルは、真田の意見を積極的に取り入れ、わからないことがあれば質問してくれた。真田が直しを入れると、素直に応じてくれる環境だった。「それはプロデューサーという肩書きがあったから、できたことです」と真田は言う。「今までは、やはり遠慮がちに、"ここ、こうなりませんかね……?"とタイミングを見計らって。それでも変えられない時が多々あった。そういうもどかしさ、悔しさが、今回のプロデューサーとしてのモチベーションやエネルギー源になった。せっかくプロデューサーとして関われるのだから、妥協はしないぞという思いがありました」。

真田が『ラスト サムライ』でハリウッドに飛び込んでから20年が経つ。「いろいろなことを学ばせていただいたし、何が必要なのかというのを学ばせていただいた」。これまでに真田が培った人脈とノウハウの全てを注ぎ込むように、自ら人材配置を行った。「京都、東京、各地からスペシャリストを呼ぶことができました。これまでの悔しい経験が、今回に活かされました」。

現場で真田が指摘した「誤った日本描写」はどのようなものだったかと聞くと、「数え上げるとキリがない」と笑う。例えば、障子が裏表にはめ込まれている、玄関に靴を脱ぐ段がない、などだ。着物の着付けからレクチャーした。「襟が右前になると、それは葬式の死人に着せるものになる。それだけで意味がついちゃうんだよ、ということを一から教えました」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

撮影後の編集作業でも監修を務めた。日本的な意味合いを考え、切ってはいけないところ、スキップしてはいけないところを、ひとつひとつ指示した。

VFXについても同様だ。こんなに高い建物がここにあってはいけない、屋根の色が違う、五重塔はここにはない、安土城がカラフルすぎて中国系に見えてしまう……。「随所で目を光らせました。日本から連れてきたクルーたちもいるので、各パートで頑張って、直してもらいました」。

その監修においては、異なる文化のクルーと共に仕事をする苦労もあった。ハリウッドのスタッフにも、プライドやアイデアがあるからだと、真田は説明する。「通訳を通した日本のクルーが巻き込まれてしまうことや、意見が潰されてしまうこともありました」。

そうした報告を現場から受けた真田は、各部署のチーフに自ら「これは、こうだからやってはいけないんだよ」と掛け合った。「これはウエスタンサイズから見た誤解なんだよ。何の映画を見て真似したかは知らないけれど、あれを真似してはいけないよ、というところまで踏み込んで伝えるんです」。

海外チーフからは、「でも、そういう映画があるじゃないですか」と返される。「それは間違いなんだ。今作は、それを直すのがテーマだから、分かってくれるかい?」真田は説得する。「それで渋々、矛を収める……ということが、よくありました(笑)」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

喧喧諤諤のやりとりは、時に解決に至らないこともあった。最終的にはジャスティン・マークスが登場し、「日本側の意見を聞いてくれ」と代わりに説得した。どんなことでも、一切妥協せずに戦うことが重要だったと、真田は振り返る。

世界の観客に向けて正しい日本文化を発信することと同様に、日本の観客、特に若い世代に向けて、セリフ回しを現代風に置き換えることにもこだわった。時代の言葉に忠実でありながら、現代の観客にわかりやすく、しかしながら現代的になりすぎないというバランスを、台本作りの時点から意識した。

特に現代的な口調で飄々としているのが、浅野忠信が演じる樫木藪重だ。伊豆の大名で、虎永に支えているが、忠誠心はない。立場に応じて裏切りを繰り返す、最も油断ならない男である。「他の武将たちと違う"裏切り"の象徴として、どこか型破りなものを望みました。そこにフリーダムを与えて、藪重のキャラが際立つようにしています。特別な存在として、野放しにしたんです」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

ほとんどを日本人のキャラクターが占める「SHOGUN 将軍」は、七割ほどが日本語で展開される。海外の視聴者は字幕鑑賞が主となるが、「海外では、字幕鑑賞を好む人が増えてきている」と真田。「SHOGUN 将軍」にとっては追い風だ。

一方で真田は、「以前は日本人の方が字幕で洋画を見て、アメリカ人は字幕を見ない、という状況でしたが、今はそれが逆転した」とも観察している。「日本人の観客の方が字幕を避けていて、アメリカ人や海外の観客の方が、字幕版を選び、原語を聞きたがっている。日本は大丈夫かな、原語で見る習慣がなくなっている世代がいるなということを、ちょっと悲しく思っている世代です(笑)」。

「SHOGUN 将軍」真田広之 単独インタビュー取材
©︎THE RIVER
ヘアメイク:高村義彦(SOLO.FULLAHEAD.INC)

2024年の1月にとある授賞式の場で、『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ監督と再会した。「『SHOGUN 将軍』のトレーラー、観たよ……」とスタエルスキは言ったそうだ。どうやって、あんなクオリティが実現できたのかと、興味津々だったという。真田の話を聞いたスタエルスキは、「やっぱり、日本人の役は日本人でやらなきゃな……」と呟いた。

スタエルスキは日本の時代劇ゲームを実写化する「Ghost of Tsushima」に取り組んでいる。別の企画が監督次回作に決定したため、実現はまだ先のことになりそうだが、彼はかねてから「オール日本人キャスト」の意向を口にしていた。「SHOGUN 将軍」の真田の姿を見て、その決意も固くなったことだろう。

何らかの形で「Ghost of Tsushima」に参加するのはどうか?尋ねてみると、「実は、打診はされています」と真田。「もし関わるとしたら、ポジションはどうなるかはわかりませんが、助言はできると思います。とにかく、まずチャドには『SHOGUN 将軍』全10話を観てほしい。それから話をしたいですね。ゲーム寄りで行くのか、本物志向で行きたいのか、それによって僕の関わり方やスタンスも変わると思います」。

SHOGUN 将軍
© 2024 Disney and its related entities

「SHOGUN 将軍」で初めてプロデューサーを任されたことについて真田は、「日本のものを海外に紹介していけるポジションに辿り着くことができた」と感慨深い。今後も、日本が題材の作品ではプロデューサーを務め、日本の優秀な人材やストーリー、美学を伝える橋渡し役となることが目標だと語る。

一方で、「文化を背負わない」作品では、「気軽に俳優として楽しみたい」とも。「『ブレット・トレイン』や『ジョン・ウィック』は別世界ものと言いますか。生の現代日本を見たいというよりは、近未来に近い、想像の世界の日本を見たいというコアファンに向けて作られています。そういうことであれば、僕は甘受して、ただ役者として(現場に)行って。よほどおかしいところは直しますけれど、むしろその世界観をエンジョイする立場です」。

そういう作品があっても良いと、真田は続ける。「それによって日本に来たいと思ってくれる人が増えれば良い。ケース・バイ・ケースで割り切っています」。

ただし本作「SHOGUN 将軍」は違う。徹底した時代考証、裏の裏まで目を光らせた監修。一才の妥協を許さず、日本の文化を正しく世界に伝える。「この作品が、異文化を描く時のニューノーマル、常識になってくれることを祈っています」と、真田は想いを込める。「今時、これくらいやらないと恥ずかしいよ、ということを、スタジオや作り手が考えてくれるキッカケになれば。5年後、10年後、より多くの日本の題材や俳優たちが海外に進出してく可能性が広がってほしい。そのためにも、本作を成功させたかったのです」。

「SHOGUN 将軍」はディズニープラスの「スター」にて独占配信。

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