2024年12月8日日曜日

博物館に初もうで その1.特別展示「ひつじと吉祥」 @東京国立博物館 : Art & Bell by Tora

博物館に初もうで その1.特別展示「ひつじと吉祥」 @東京国立博物館 : Art & Bell by Tora

博物館に初もうで その1.特別展示「ひつじと吉祥」 @東京国立博物館

 今年の美術散歩は1月4日から。とらは山手線で上野に向かい、東博の「博物館に初もうで」してきた。地下鉄で銀座・松屋の「古田織部展」から日本橋・高島屋の「川瀬巴水展」へと動く家内とは別行動である。
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 屋外展示の石像《羊》朝鮮時代 18‐19世紀は通年展示なのだが、この初詣期間中は「新春特別公開」ということになっていて、いささか照れくさそうである。
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 まずは、本館 特別1室で 1月2日~12日まで開かれている特集展示「博物館に初もうで~ひつじと吉祥~」へ。
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展示は、I.アジアの羊、II.十二支、III.日本人と羊、IV.吉祥模様 の4部に分かれている。

Ⅰ. アジアの羊
羊は紀元前より人類にとって最も身近な動物のひとつで、東洋でも西洋でも、神へ捧物とされてきた。特に、羊は乾燥した環境にも強いため、西アジアを中とする遊牧民にとって重要な家畜だった。中国では3000BC頃の仰韶文化で羊の飼育化が始まった。羊は当初は土製品ついで羊文として青銅器に取り込まれ、漢代以降は「よきもの」の意を有する「羊」は「美」「善」「祥」といった漢字に使われるようになり、図像石や石像にも表れるようになった。このように羊を「吉祥模様」として扱う文化は朝鮮半島に伝わったが、羊が生息してない日本では十二支のひとつや異国の動物として認識されただけであり、明治時代に実物が広く持ち込まれるまでは、半ば想像上の動物に近い存在として表現されていた。
 第Ⅰ部でのお気に入りは以下である。

《牡羊小像》バクトリア(アフガニスタン北部またはウズベキスタン南部)、青銅器時代・前2千年紀前半: 乾燥に強いためオリエントで大切な家畜だった羊は、さすがに細かく観察されている。
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《羊頭部形垂飾》地中海東岸又はカルタゴ出土、前7~前6世紀: 仔羊の頭部を模した装飾品。紫色・茶色・黄色などの色ガラスで目や角を表現している後頭部の環から紐を通した。
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《緑釉羊圏》中国・後漢時代・2~3世紀: 周囲を壁で囲われた建物の中に3頭の羊。当時の羊舎を模した陶傭である。
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《正倉院臈纈屏風 羊木写》明治時代・19世紀写(部分↓): わが国の羊の表現としては最古のもの。原品は朧纈(ろうけつ染め)で、羊の図像はササン朝ペルシャの羊の文様に近いとのこと。
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Ⅱ.十二支
十二支は古代中国の暦法に用いられた言葉で、時や方角を表すものであるが、やがて動物が十二支に当てはめられ、北魏時代以降に動物によって十二支を表した作品が見られるようになった。隋時代には、獣頭人身の表現が現れ、傭に多くの作例が残されている。このような十二支の役割は古代朝鮮や日本にも伝えられ、統一新羅時代の陵墓周囲の浮彫装飾やキトラ古墳の壁画として見ることができる。わが国においては、仏教の薬師如来が人々の守護に遣わす神々として十二神将が説かれ、平安時代以降、その頭部に十二支の動物で表すことが一般化した。
《伝金庾信墓護石十二支拓本のうち未》明治時代・19世紀(原碑=統一新羅・8~9世紀):慶州の金庾信(595‐673)の墳墓は、その周囲を護石で固められ、方角に応じて十二支の浮彫が表されている。獣頭人身の十二支はいずれも武器を取って墓を守る姿である。
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重文《十二神将立像 未神》京都・浄瑠璃寺伝来、鎌倉時代・13世紀: この像ではすでに羊の飾りは失われていているが、羊の毛並みを意識したかのように正面の毛束を巻いた形で表している。
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森狙仙《羊図扇面》江戸時代・19世紀: 猿を得意とした森狙仙の羊。
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重文・趙福《羊図(唐絵手鑑「筆耕園」のうち)》中国 明時代・16世紀:舶来中国画60図をアルバムにまとめたもの。画の筆法・構図・主題などの手本であるとともに、大陸の生物や風俗を知る貴重な資料でもあった。黒田藩旧蔵。
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《飛天十二支八花鏡》隋~唐時代・7世紀: 中心部分は島が浮かぶ水面に見立てられ、周囲の四角形に十二支の動物が配されている。その外側には天上世界の飛天が表され、全体として「天円四方」(天は丸く、大地は四角い)という古代中国の世界観が反映されている。
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《四神十二支鏡》隋時代・6~7世紀: 鏡に帯紐を通すための鈕を中心として、東西南北を表す青龍・白虎・朱雀・玄武が巡り、その周囲に十二支の動物が配されている。こうした鏡は災いを払うものと信じられていた。今回は羊を一番下にしての展示だった。
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《青玉筆洗》清時代・19世紀: この玉彫の筆洗は筆を洗う文房具。水を入れる部分は貝の形をしており、柄は羊の頭を表している。内面には乾隆御題の詩が刻まれていた。
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狩野養長摸《十二支類絵詞》江戸時代・18世紀(原本:室町時代・15世紀): 十二支に恥をかかされた狸が他の動物とともに合戦を挑む物語。
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Ⅲ.日本人と羊
日本書紀には、599年に百済からラクダやキジとともに羊が献上されたと書かれている。しかし高温多湿で、食肉文化のない日本では、近代まで羊の飼育はされなかった。日本人は舶来の絵画や書籍等を通じて羊の存在を知ったが、中国や朝鮮半島と異なり「羊=吉祥」のイメージよりも「羊=異国の生き物」のイメージが先行し、羅漢図や唐子図といった中国主題の絵画の一部として表現されたが、山羊と羊の姿が混同されていることも少なくなかった。
北尾重政《羊と遊ぶ唐美人と唐子》江戸時代・18世紀
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礒田湖龍斎《風流十二支・未》江戸時代・18世紀
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歌川国芳《よきことを菊の十二支》江戸時代・19世紀
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渡辺南岳《十二支図》江戸時代・18世紀: 南学は応挙の弟子。羊は実見する機会がなかったためか、目立たぬ場所に、鹿に似た姿で表現されている。
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Ⅳ.吉祥模様
古来より中国ではめでたく好ましい事柄が模様によって象徴されてきた。豊穣や子孫繁栄を示す「蓮」、立身出世を示す「鯉」、長寿を示す「仙人」、理想世界の到来を示す「龍」や「鳳凰」がそれで、こうした幸福への思いが込められた模様を「吉祥模様」と称している。古代日本に伝えられた吉祥模様が、人々の好みによって変容を遂げていった例もある。厳寒でも退色しない植物として高潔な精神を象徴する「歳寒三友」は、わが国では目出度さを象徴する「松竹梅」となっている。
重美・伝雪舟等楊《梅下寿老図》室町時代・15世紀(↓左) / 重美《寿星図》中国・元時代・14世紀(↓右):
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《寿星図》の寿老人は長寿をもたらす南極老人星の化身。道教における礼拝対象として描かれた。ただし、時代が下がると、長寿を象徴する鶴や鹿を従えた吉祥画として描かれるようになる。雪舟の作品は元時代の「寿星図」とほぼ同じ構図だが、松竹梅や鹿と絡み合い、吉祥画的になってきている。雪舟が学んだ明代絵画の影響が日本に伝播した例である。

重文・雪村周継《松鷹図》室町時代・16世紀: 鷹狩の鷹は、武士を象徴する生き物として描かれた。
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 大分長くなったので、「博物館に初もうで 総合文化展」の記事は別記とする。

美術散歩 管理人 とら

【註】
その1: ひつじと吉祥
その2: 聖徳太子絵伝
その3: 源氏物語扇面・筆跡 と 三色紙
その4: 茶道具と吉祥画

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