「源氏物語」幻(その49)
年暮れぬと思すも、心細きに、若宮の、「儺遣らはむに、音高かるべきこと、何業をせさせむ」と、走り歩き給ふも、「をかしき御有様を見ざらむこと」と、万に忍び難し。
「もの思ふと 過ぐる月日も 知らぬまに 年も我が世も 今日や尽きぬる」
一日のほどのこと、「常より殊なるべく」と、置きてさせ給ふ。親王たち、大臣の御引出物、品々の禄どもなど、何となう思し設けて、とぞ。
六条院【光源氏】は今年も暮れてしまったかと思って、心細くなりましたが、若宮【匂宮】が、「儺([追儺]=[大みそかの夜に行われる朝廷の年中行事の一。鬼に扮した舎人を殿上人らが桃の弓、葦の矢、桃の杖で追いかけて逃走させる行事])で鬼を追い払うのに、大きな音を立てるのに、どうすればよいだろう」と、走り回っているのを見るにつけ、「もうこのような姿を見ることもできなくなるな」と、何につけ寂しさをこらえきれませんでした。
「悲しみに、過ぎて行く月日も、分からないままに、今年もそして我が命も、今日で尽きてしまうのだろうか。」
元日の行事を、「いつもより格別に」と、言い置いて準備させました。六条院【光源氏】は親王たち、大臣への引出物、品々の禄([贈り物])などを、それぞれに用意した、ということでした。
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