楚辞 九歌 屈原 現代語訳
https://ja.wikipedia.org/wiki/九歌
全11篇から成る:
- 東皇太一 - 至高神への頌歌
- 雲中君 - 雲の神を讃える
- 湘君 - 湘水の男神への思慕
- 湘夫人 - 湘水の女神との別離
- 大司命 - 寿命を司る神
- 少司命 - 子孫を守護する神
- 東君 - 太陽神の巡行
- 河伯 - 黄河の神との交歓
- 山鬼 - 山中の精霊との出会い
- 国殤 - 戦没将士を悼む
- 礼魂 - 終曲の送神歌
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楚辞
九歌
「九歌」は11篇の祭祀歌の総称です。これは屈原の作であるかどうかも不明です。さらにその詞句の寓意の内容も明確にし難く、 はたして寓意があるかどうかも疑わしいとされています。この歌は寓意や風刺の意はないという説がもっとも有力であるとされています。
1.東皇太一
今日のよき日、時刻もよい。ここにつつしんで上天の神を慰め奉ろう。
使え祀る巫が長剣の玉の柄頭を握れば、チリリンと帯玉が鳴る。
美しい玉の席に、白玉の重石を置いてある。玉のように美しい香りのよい花を合わせ取り持って献げ、
草の香気高い肉を進めて蘭をその下に敷き、肉桂の酒、山椒の漿を供える。
そこで枹を振り上げて鼓を打ち、拍子を緩やかにしてのどかに歌い、
竽を吹き瑟を弾いて高らかに唱うと、
しなやかに舞う巫女は美しく装い、芳しい香りは立ち込めて広間に満ちる。
五音入り混じって合奏すれば、神は悦ばしげにして安んじ楽しみ給う。
2.雲中君
蘭の湯を浴び、香水に髪を洗い、色彩麗しい衣は花のようである。
このように清潔に美しく装って神につかえ祀れば、神霊はゆらゆらと降り留まり、神光は輝かしく照らして極まり尽きることがない。
雲の神は、ああ、祭殿に安らごうとして、日月と光をひとしくして輝き合う。
竜に車をひかせ、天帝の服を着けて、神はしばらく天駆けさまよい給う。
神は煌やいて、すでにここに降り給うたけれども、たちまちに遠く雲中に挙がっていかれた。
天空を行く雲の神は、中国の冀州を覧るだけでなく、中国の外の土地をも見回る余力がある。九州の外にある四海に充ち広がって、どうして窮まり果てることがあろう。
人々はあの雲の神を思い慕って溜息をつき、心は疲れ果てて痛みうずくのである。
3.湘君
かの君はまだ行かずにためらっている。ああ、川の中洲に留まっているのは誰だろう。
美しくみやびやかに、よそおいも整い、ゆらりと私は桂の舟に乗る。
湘水の神なれば、私は沅水と湘水に波も立てさせず、大川の水を安らかに流れさせ、
かの君、湘夫人を望み見るけれども、まだ来られない。参差の笛を吹いていて、私は誰を思うのであろう。ただかの君のことばかりである。
空飛ぶ竜に舟を挽かせて私は北に行き、廻って洞庭湖へと道を取る。
薜茘の香草で作った簾、草の垂れ幕。香ばしい蓀の草を束ねた橈、蘭草で作った旗。
私は涔陽のはるかな浦辺を眺めつつ、大川に充ち満ちて盛んにわが神霊の気を揚げる。
霊気を揚げてまだ終わらぬのに、私の侍女は思い悩んで私の為に同情して溜息をついた。
私はかの君の来ないのを悲しんで、せきあえぬ涙がはらはらと流れ、君を思い痛んで、胸はもだえるのである。
桂の櫂に木蘭の、舟を漕いで氷を砕き、雪を分けて左右に積みながら進むけれども、
薜茘を水中に采り、蓮の花を木の梢に摘み取るのにも似て、かの君に会うことは、かなわぬ願いであろう。
二人の心が会わねば、媒も無駄な骨折りであり、恩愛の情が深くなければ、仲は絶えやすいものである。
石の多い早瀬はさらさらと鳴り、私の舟をひく飛竜はひらひらと身をひるがえして軽快に進むけれども、
二人の交わりにまごころがなくて、怨みは長く、かの君は約束の日をまことに守らずして、暇がないと私に告げる。
そこで私は朝には大川の岸を思う存分に駆け回り、夕暮には北の渚に舟足を止めて休息すると、
鳥はその祭殿の屋上にやどり、水はその広間の下をめぐって流れている。
私の玦のさげ玉を大川の中に投げ入れ、私の佩び物を澧浦の中に落とし込んで、
芳しい草の茂る中洲の杜若を摘み取り、下にいる乙女の君に贈ろうと思う。
君と会う時はまたと得られないのだから、しばらくここにあてもなくさまよい、ゆっくりと君と遊ぼう。
4.湘夫人
天帝の御子湘君は、北の渚に降りたもう。はるかに眺めていると、私を悲しませるのである。
そよそよと吹き続ける秋の風の中に立っていると、洞庭の広い湖面に波が立って岸の木の葉がしきりに散っている。
白薠に踏み乗り、目の届く限り眺めて、かの君との楽しい逢瀬のために支度をする。
しかし鳥はなぜあの水草にあつまり、魚の網がどうして木の上にかけてあるのか。
沅水のほとりには茝があり、澧水の付近には蘭草がある。慕わしい公子を思い求めていながら口にはまだ言うこともしない。
心もうつろに遠くを眺め、さらさらと流れる水を観ていると、
森の大鹿はなぜか庭に出て来て草を食み、水中深く住む蛟の竜が水辺で何をしているだろう。
私はそこで、朝にはわが馬を大川の岸に走らせ、夕方には西の水際に渡った。
あこがれの佳い人が、私を召されると聞き、もろともに車に乗っていこうと思う。
会合の室を水中に築き、蓮の葉で屋根を葺き蓋い、
蓀の香り高い壁、紫貝の壇。かんばしい山椒を播いて、広間を立派に整えた。
桂の棟木、木欄の垂木。辛夷の木の梁桁、葯の香る部屋。
薜茘を編んで垂れ幕とし、草を裂いて幔としてもう張ってある。
白玉を重石とし、石蘭を播き散らして香りをよくし、
芷を蓮の葉の屋根に挿し、そのまわりに杜衡を葺く。
さまざまの草を集めて庭に満たし、芳しい花を積んで門の上を蔽う。
やがて九疑山の神々が盛んにむらがり並んで迎えると、湘君の神霊は衆神を随えて雲のように降ってこられる。
私の袷肌着を江中に投げ、私のひとえを澧浦の水に落とし込み、
川の中洲の杜若を取って、遠く離れているあの人に贈ろう。
君と会うのによい時は、しばしば得られないから、しばらくここに目的もなく歩き回り、ゆっくりと遊ぼうと思う。
5.大司命
天の門を広く開いて、私は乱れる黒雲に乗り、
つむじ風を先駆させ、暴雨を塵土にそそがせて進んでいく。
かの君は飛び回りながら下っていかれるので、私は空桑山を越えて、あなたを追っていこう。
この入り乱れて群がる九州の万物の、長生きや若死にの責任が何故私の身に在るのであろうか。
私は高く飛び、のどかに翔り、清しい風に乗り、陰陽二気の変化にのって動くのである。
私はあなたと速やかに、天帝を案内して九坑の山に行こう。
私の神衣は長くたなびき、白玉の佩びものは美しくきらめく。
あるときは陰、あるときは陽と、世の万象が変化するのは、私の所為だとは衆人は知らないのだ。
私は麻の白玉のような華を折って、遠く離れているあなたに贈ろうと思う。
老年がだんだんときて、もはやそれも極まろうとしているのに、あなたに近づくどころかいよいよ遠ざかってしまう。
そこで竜車に乗って車輪の音をとどろかせ、高く馳せて天に昇り、
桂の枝を結んで、わが心中を伝えようとしばらく立ち尽くしていたが、ああ思えば思うだけ自分を悲しませるのである。
この悲しさを何としよう。せめてどうか今の破局に至らないままでいたいものである。
もとより人の運命には当然なさだめがある。別れも会うも誰が意のままにできようぞ。
6.少司命
秋蘭と麋蕉とが、堂の下につらなり生えて、
緑の葉に白い枝が美しく、香気は立ちこめて私にふりそそぐ。
人々にはもとよりよい配偶の人があるものを、あなたはなぜ愁い苦しんでおられるのですか。
秋蘭は青々として、緑の葉に紫の茎が誠に美しいが、
広間に満ちた美しい人々、その中で、忽ちひとり私とだけ目配せして意を通じた大司命の神は、
堂に入るにも物を言わず、出て行くにも言葉をかけ給わず、旋風に乗り、雲の旗を立てて去っていかれる。
世に悲しいのは、生き別れより悲しいものはなく、楽しいのは、新たに心から知り合うことより楽しいものはない。
私は荷の葉の衣に、草の帯をしめ、たちまち来てはたちまち去り、
夕暮に天帝の城外に宿ると、あなたは雲の果てに誰を待っておられるのであろう。
あなたと九河で遊べば、風がおこって水波をおこし、
咸池にあなたと髪を洗い、日の照る山の端で、髪を乾かそうと、
慕わしい立派なあなたを待ち望んでいても、まだ来られないので、私はただ風に向かって心もうつろに大事で歌うのである。
孔雀の羽の車蓋と翠の毛の旗、天高く登って彗星を手にとり、世の罪悪不浄を掃き除き、
長剣を握って、片手に幼弱の者を抱き護り給う。大司命の神こそ、ただひとり人を裁き治めるに宜しい神であると。
7.東君
赤々と朝日は東方に出ようとして、扶桑のもとにあるわが宮殿の欄干を照らす。
私の馬をおさえて静かに駆けると、夜は白々とはや明けてきた。
竜に車を挽かせ、雷雲に乗り、雲の旗を立てて、ゆらゆらとたなびいている。
長歎息して、いよいよ天に上ろうとするが、心は去り難くて顧み懐う。
ああ歌声や色美しい巫女の私をなぐさめることよ。観る者は皆心安らかに帰るを忘れる。
張り詰めた瑟と打ち交わす鼓の音、玉で飾った台にかけた鐘を撃つ。
鳴りひびくチの笛と吹き鳴らす竽の調。神巫女の徳すぐれてみめうるわしいのを思うのである。
巫女たちは飛びめぐり、翠のように挙がり、詩を展べ、集まり舞う。
音律に応じて調子を合わせているうちに、もろもろの神々のみたまが日を蔽うようにして天下る。
私は青雲の上衣に、白霓のはかまをつけ、長い矢を取り上げて、天狼星を射る。
そして自分の弓を持って立ちかえり降って、北斗の星の柄杓を取り、肉桂の薫るこんずを酌む。
やがてわが手綱を持って高く馳せかけって、はるかに暗黒の中を私は東へと行くのである。
8.河伯
あなたと九河に遊べば、暴風が起こって波が一面に立ち騒ぐ。
私は水の車に乗って、蓮の葉を車蓋とし、二頭の竜を車につけ、みずちを驂とし、
崑崙山に登って四方を見渡せば、心は飛び上がって、はてしなく拡がっていく。
やがて日は暮れようとするのに、心は悦び帰ることを忘れ、ただ遥かに続く大川の浦辺を恋しく思う。
そこには魚の鱗で葺いた屋根や竜の鱗の広間があり、紫貝で飾った城闕や珠玉の宮殿がある。
神霊はなぜ水中におられるのだろう。白い亀に乗り、あやの紋ある魚を追って、
あなたと黄河の中洲に遊べば、流れる水はむらがり下がってこようとしている。
あなたと手を携えて東に行き、このよい人を南の浦辺に送れば、
彼は滔滔として迎えに来て、魚は相連なって私を送るのである。
9.山鬼
ここに山に住む人がある。私は薜茘の衣を着て女蘿の帯をしめている。
もとより流し目に情を込めてその上笑顔もよい。あなたは私のふり好くたおやかなのを慕っていなさる。
私は赤い豹に乗り、まだらの毛の狸を連れ、辛夷の木で作った車に桂の旗を結び、
石蘭の衣をつけて、かんあおいを帯とし、香気の高い花を折って、思うお方に贈ろうと思っている。
私は深い竹やぶの中に住み、終に空も見えない。それに路がけわしくて、ひとり遅れてきたのである。
高く独り山の上に立てば、雲は流れて眼の下にある。
どんよりとあたりも見えず、昼なお暗く、東風は吹きめぐって神霊は雨を降らしている。
善いお方を引き留めて、楽しんで帰るのを忘れさせたい。歳がすでに晩くなっては、誰が私に華を吹かせよう。
年に三たび花咲く霊草を、山間に取ろうとすれば、石は重なり、葛ははびこって進みがたい。
私は貴公子のあなたに会えぬことを怨んで、帰ることをさえ忘れてしまった。あなたは私を思っていても、来る暇がないのであろう。
山中の人、私の採る杜若は芳しく、岩清水を飲んで、操変わらぬ松柏の蔭に汚れなく住んでいるのに、
あなたは私を思って惑いが起こったのであろう。
雷はとどろき雨は暗く、猿は群れ鳴き狖は夜鳴く。
風はさっさと吹き、木はさびしく鳴っている。あなたを思うと、ただむなしく愁いにしずむばかりである。
10.国殤
呉の戈を取り、犀の鎧を着て、戦車の轂は敵の車と噛み合い、剣は相打つ。
旗は天日を蔽い、敵は雲のように群がり、矢は互いに飛び交って落ち、兵士は先を争って進む。
敵はわが陣を乗り越えて、わが隊を踏み通る。わが車の左の添え馬は倒れ、右の馬は刀に傷ついた。
車の両輪を土に埋め、四頭の馬をつなぎ合わせて、玉の飾りに枹を振り上げ、太鼓を打ち鳴らす。
天の時節もこの悲壮な戦いを怨み、神霊も怒り、戦士を殺し尽くして、原野に棄てる。
戦士は出陣して入ることなく、ひとたび征ってまた返らず、平原ははてもなく、路は遥かに遠い。
長剣を帯び秦の強弓をたばさみ、首と身体がはなれても、心は懲り改まることはない。
誠に既に勇ましい上にまた猛く、最後まで剛強で、犯すことはできなかった。
身はもはや死んでしまっても、精神は活きている。あなたの魂魄は鬼神の英雄となっておられる。
11.礼魂
儀礼を手落ちなく行い、太鼓を打ち連れて、香草を手渡しては、代わる代わる舞う。
みめよき巫女は歌をうたって、のどかに遊ぶ。
春の蘭と秋の菊と、香りよき花を供えて、祭りは長く絶えることなく、とこしえまでも変わらないであろう。
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