いまの日本人のDNAは「大陸から来た渡来人」が9割…最新のゲノム研究でわかった日本人の意外なルーツ
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いまの日本人のDNAは「大陸から来た渡来人」が9割…最新のゲノム研究でわかった日本人の意外なルーツ
■旧石器時代という大きな謎 【星野】そもそも、日本列島に最初のホモ・サピエンスが現れたのは約4万年前といわれます。そこから縄文時代が始まる1万6000年前までの間、旧石器時代については分からないことが多いとか。 【篠田】一番の謎といっていいでしょう。人骨が極端に少なく、生活ぶりや人口動態を復元する手がかりがほとんどありません。旧石器時代は2万年以上も続いているはずですが、われわれは断片的な石器遺跡から推測するしかない。 もし今後、旧石器時代の人骨がまとまって見つかり、DNA解析が行えるようになったら、日本人の起源をめぐる議論は大きく塗り替わる可能性があります。これは列島だけでなく、東アジアや東南アジア全体の人類拡散とも深く関わりますから、非常にエキサイティングなテーマですね。 【星野】先生の著書では、日本列島に人々が来たルートが複数あると指摘されています。北方から、南方から、そして大陸側からと。 【篠田】日本列島はユーラシア大陸の東端に細長く連なり、氷河期には海面が低くなっていたこともあって、さまざまなルートで人が入ってきたと考えられます。 沖縄や奄美など南西諸島には南方系の集団が、北海道にはオホーツク文化など北方系の流れが、そして九州や本州には朝鮮半島経由のルートがあった。これらが何度も波状的に流入・混血を繰り返した結果が、現在の日本列島に住む人々だと思われます。 ■日本人の起源は「縄文+弥生」ではない 【星野】つまり、最初から一方向で来たわけではなく、複数方向から人が入った。 【篠田】そのうえ縄文後期〜弥生〜古墳と、文化的にも断続的に大陸との交流があったはずです。そう考えると、日本人の起源は単純な「縄文+弥生」の二重構造で片づけられない複雑さをもっています。 【星野】教科書でも習う「二重構造モデル」(※)は、やはり通用しなくなってきているのでしょうか。 ※ 東南アジア系の縄文人に北方アジア系の渡来人が混血し日本人が形成されたとする仮説。東京大学名誉教授、国際日本文化研究センター(日文研)名誉教授の埴原和郎(1927〜2004年)が発表。 【篠田】大枠では有効ですが、実はずっと前から「沖縄と北海道はどう説明する?」という問題は指摘されてきました。 沖縄やアイヌに高い縄文DNAが残っているのは、弥生的な混血が遅れた、あるいは局所的に進まなかったからですが、同時に南方・北方の要素も混在している。 さらに、古墳時代や中世以降にも渡来や移動があった可能性を考えると、「縄文対弥生」だけでは収まりきれない歴史が垣間見えてくるわけです。今後、古代DNA研究が進めば、「どの時期にどの地域から来たDNAが、どこに残ったのか」まで判明していくかもしれません。
■外来種が今の世界を作った 【星野】先生の研究にもあるように、「日本人のDNAの9割は外来」という話を聞くと、「私たちは結局、外から来た人々の子孫ばかりなのか」と思ってしまいます。 【篠田】実際、日本列島だけでなく世界各地がそうなんです。ヨーロッパ人だって狩猟採集民、農耕民、牧畜民などの集団が混ざり合い、現在に至っています。 時間スパンを長く取れば、もともとアフリカで生まれたホモ・サピエンスが全球的に拡散した歴史ですから、ある時代を境に外から来た人を「外来種」と呼んだところで、つまるところ境目は恣意的なんですよ。 ただ、私たち日本列島の視点で言えば、縄文人が2万〜3万年以上かけて育んできた文化に、農耕を中心にした渡来民が3000年前ごろ流入し、圧倒的に人口を増やしたことが今のDNA構成を生み出した──それを「外来DNAが9割」と表現しているわけです。 【星野】篠田先生は別の著書で「1万年前の狩猟採集民のほうが脳容量が大きかった」とも書かれていますよね。それは現代人より優れていたということなのでしょうか。 ■狩猟採集民のほうが脳が大きかったワケ 【篠田】脳のサイズだけで知的水準を測るのは難しいですが、狩猟採集を主とする社会では一人ひとりが幅広い知識や技能を身につけないと生きていけませんでした。自然界の動植物を見極め、危険を回避し、獲物を仕留める道具を工夫する。現代人ならAIに頼ったり、専門家に任せたりしてやり過ごせることも、当時はすべて自力だったわけです。 ただホモ・サピエンスとしての認知能力は2万〜3万年前から大きく変化していないとされていますし、文明社会では逆に分業と協力で高度な技術や科学を発展させてきた。昔が賢い、今がバカという話にはならないということですね。 【星野】今後、日本人の起源について研究がさらに深まれば、どんな新しい景色が見えてくるでしょう? 【篠田】やはり古代DNAの解析精度が格段に上がっているので、弥生や古墳はもちろん、中世〜近世の遺骨解析が進むと、「実はこの時代にも意外な渡来があった」「ここには北方系が紛れ込んでいる」など、これまで想像しなかった事実が浮かび上がると思います。 朝鮮半島側や中国東北部などの古代DNAとも比較すれば、日本列島に入ってきた集団の具体的な系統がかなりはっきりするでしょう。二重構造モデルがどう細分化されていくのか。そこにこそ、私が今いちばん期待している研究の発展があります。
■「日本人の成立の解明」の大きな効果 【星野】沖縄や北海道、いわゆる列島の南北を丁寧に見ていくことも大切だと感じました。 【篠田】本州中心だと見えにくい流れが、南北にははっきり残っているんです。沖縄のグスク時代(中世期)まで稲作が本格導入されなかったことや、北海道が弥生化せずにオホーツク文化や擦文(さつもん)文化を経てアイヌへとつながったことなどは、ある意味で「日本列島における別の歴史」を示唆しています。 たとえばアイヌは縄文系が7割以上とも推定されていますが、一部には北方系のDNAが混ざっている。沖縄の3割ほどの縄文系も、実は南方系との交流が重なっていて、本土とは異なる独自の混血パターンになっている。こうした多様性が日本全体の“豊かさ”とも言えるわけです。 【星野】日本人のルーツにこれほどさまざまな要素があると知ると、私たちの自己認識も変わりそうですね。 【篠田】大いに変わると思います。結局、人間は常に動いて混ざり合ってきました。今も世界各地で移民や難民など移動が続き、「排外主義」が起こる国もありますが、DNAが示すのは、「どんな国や地域にも多様な系譜が入り混じっている」という事実です。 日本列島を例に取ってみても、南北端の歴史を検証すれば、一方向的な同質集団であるはずがありません。日本人はもともとそうやって成立してきたんだ、という視点は、アイデンティティを狭く捉えがちな風潮への一つの処方箋になりうるでしょう。 ■クラファンを始めたワケ 【星野】先生ご自身として、まだ解明されていない部分で興味をそそられるのはどのあたりですか。 【篠田】やはり旧石器時代の人骨をはじめとする超古代のDNA解析ですね。これがまとまった数で行えるようになれば、日本列島の最初期にいた人々がどのようにアジアからやってきて、どんな経路で北と南に分岐したのか、もっとリアルに描けるはずです。さらに古墳時代〜中世の骨についても、朝鮮半島や中国華北・華中の古代DNAと合わせて比較すれば、弥生以降の「第2、第3の渡来」がどこで起きたのか分かるかもしれません。 「日本人とは何か」という問いに対して、どんどん実証的に答えられるようになっていくと思います。でも分かれば分かるほど、いかに多重的かが分かる、というのがおもしろいところですね。 【星野】最後に、国立科学博物館のクラウドファンディング(以下、クラファン)について教えてください。2023年8月7日にスタートして1日で目標1億円を突破し、非常に多くの支援が集まりました。多くの方が驚かれたと思いますが、いつ、どんな理由で実施したのか、改めてお聞かせください。 【篠田】今回のクラファンは、コロナ禍や国際情勢による物価・光熱費の高騰で、国立科学博物館の標本保存や研究活動を支える運営費が大きく逼迫したことが直接のきっかけです。コロナによる入館料収入の激減、新収蔵庫建設の資材高騰、電気代の大幅な増加──これらが重なり、予算不足が深刻化しました。
国立科学博物館館長 篠田 謙一、プレジデントオンライン編集部 星野 貴彦