【金言10選】ユダヤ人の成功の秘訣「タルムード」の教え
2017/8/25
戒律は成功につながるのか
「今、イスラエルは、スタートアップで盛り上がっていますが、むしろユダヤ人が3000年にわたって世界のイノベーションを率いてきた秘訣に目を向けるべきでしょう」
こう話すのは、元経済産業省のキャリア官僚で、国際弁護士の石角完爾氏だ。実は、石角氏は、日本人男性としてユダヤ教に改宗した、極めて数少ない「ユダヤ人」だ。
50歳を超えてから、5年にわたってユダヤ教の指導者「ラビ」の下で修行を重ね、難関の筆記試験をクリアし、割礼と沐浴、宣誓式を経て、今はユダヤ教超正統派(ウルトラオーソドックス)と呼ばれる最も規律の厳しい宗派に属している。
厳しい戒律を守り、聖典を読む日々を過ごしながら、北欧にロンドン、シリコンバレーに、イスラエルを往来し、経済事情にも詳しい石角氏は、ユダヤ人たちが経済的に成功する背景について、一つの確信に至ったという。
「ユダヤ人の成功を生み出しているのは、『不自由さ』です。ユダヤ教では、その宗教上の戒律ゆえに、常にユダヤ人が『飢餓の状態』に留め置かれ、普遍的なアイデア、イノベーションを誘引しているのです」
聖典である「モーゼ5書(トーラー)」と呼ばれるヘブライ聖書には、613の厳しい戒律がこれでもかとばかりに、事細かに記されている。「汝の母を敬え」「不倫することなかれ」「盗むなかれ」「人の奴隷を誘拐してはいけない」と挙げればきりがない。
にしても、これを守ることが、なぜ成功につながるのか。
「ユダヤの母」が伝承するもの
「例えば『汝、隣人の奥さんが綺麗だからといって羨んではいけない』と書かれていますが、これは他人を羨ましいと思うことを戒めています。そしてここから、ユダヤ人の『他人がやらないことをやる』という独自性が生まれてきているのです」
「Jewish Mother(ユダヤ人の母)という言葉がありますね。教育ママという意味で使われていますが、それは違います。ユダヤ人の教育には世代継承してきた"教義"があるのです。それは一つの思考様式でもあります」
その一つが、「タルムード」だ。タルムードは、ユダヤ教の口伝律法と学者たちの議論を書きとどめた議論集で、古代ヘブライ語で「学習」「研究」を意味する。答えのない説話も多く、タルムードを読み、親と問答を繰り返すことで、「なぜなのか」「自分ならこうする」と、多面的な視野や、独自のアイデアを生み出していく。
「私は神は信じていませんし、息子にも強要していません。ですが、親から教わった『タルムード』だけは、今も子供にも常に読み聞かせています」。実際、イスラエルの起業家の一人はこう打ち明けてくれた。
では、ユダヤ人の成功の根幹にある「タルムード」は何を教えるのか。関連する格言を含めて、紹介していきたい。
普通は、最悪なことが起きれば、落ち込む。だが、「悪いことが重なっているように見えても、人知の及ばないところで、もっと悪い事態から救われているかもしれない」(石角氏)というのが、ユダヤ教の考え方だ。
トラブルがあっても、パニックにならずに、そこに新しいビジネスチャンスがあるかもしれない、とさえ考えをめぐらす。ユダヤ人は「世界で不幸な出来事が起こるのを最初に感じ取り、世界で幸福なことが起きるのを最後に味わう」と言われるほど、物事を別の視点で捉えるよう訓練されている。
ユダヤ人が創業した投資銀行ゴールドマン・サックスや、『ヴェニスの商人』の金貸しのイメージから、「ユダヤ人は金の亡者だ」というイメージがあるかもしれない。だが、「ユダヤ人が経済的に成功するのは、何世代も知恵を伝承してきたから」と石角氏は指摘する。
逆に、日本のように「お金は汚い」とも考えず、より現実的に見ている。心身とも健全でいるためにはある程度のお金が必要であると考え、「心の平穏は財布次第」など、お金にまつわる多くの格言が伝えられている。
これには続きがあり、「どうしても一人にお金を恵む時は、むしろその人にお金を貸す形を取ったほうがいい。貸し借りは対等だから、借りたほうが惨めにならないで済む。その代わり取り立てをしてはならない。返せる時に返してもらうようにせよ」とある。
ユダヤ教では、聖書にお金の貸し借りの細かいルールが記載されているのが特徴だ。あくまで貧しい側に立った戒律で、7年で借金がチャラになる、と書いてあるほどだ。これはユダヤ人たちが、新しいチャレンジを厭わない土壌にもなっている。
ユダヤ教では、お金や物など、「数えられるもの」には幸せは宿らない、と説いている。「これだけ儲かった」と考えた瞬間に、神の庇護がなくなるとし、「お金儲けに一喜一憂すること」を明確に戒めているのだ。
逆に、タルムードの説話には、ウィズダム(知恵)を手に入れるためには、お金という対価を払わないといけない、という話がある。それは、対価なしで、賢明さは身につかないという教えであり、何かを失わなければ何も得られない、という戒めでもある。
黙っていては幸せは逃げていく。ユダヤ人はよく喋り、よく発言し、よく主張する。日本とは違い、交渉事でも、落としどころを設定せずに、粘り強く、あきらめずに少しずつ成果を積み上げていくスタイルが特徴だ。
そして、ユダヤ人は議論が大好きだ。しかも、納得いくまでとことん質問する。だから、異論も大歓迎で、討論も知恵の源泉だと考えられている。そして「なぜ?」と疑問を持つことの大切さを、非常に重んじている。それは思考停止を防ぐ作法ともいえる。
ヘブライ聖書は、ユダヤ人が苦労することを求める。「あなたの身を悩まさなければならない」などと苦難を経験すべきだと教えるのだが、そうした発想が、ユダヤ人のしぶとさやタフさの基盤になっているという。
そして、ユダヤ人の議論では、失敗談を話し合うことが最も奨励される。「なぜ間違えたのか」、それを分析することで、正しい道が見つかると考えているからだ。その失敗を有効活用する考えは、スタートアップなどの新たな挑戦でも生かされる。
例えば、職場で不満を抱えていたとして、どうしても目に入ってしまうもの、耳に聞こえるものに、立ち向かうかどうか、それは自分でコントロールできる口や手足で決めればいい。これは今ある自分を、もう一度別の視点から見ることを奨励しているのだ。
今生きているところから、「ここではないどこか」に行こうとするのではなく、今この人生をどう有意義に過ごすかが、ユダヤ教の考え方なのだという。タルムードの説話にも、本当に大切なものは、すぐ傍らにあると説く話がある。
これはヘブライ聖書の記述だ。5000年受け継がれてきたユダヤ教は、自分の人生だけでなく、子供や孫のことも含めて、物事を考える仕組みになっている。ユダヤ人は世界で初めて義務教育を行ったとされるが、そこにはこうした聖書の教えがある。
ユダヤ教は教育そのものが宗教の重要な要素で、「ジューイッシュマザー」は、本来はそこから派生している。そして「子供のころに自分がしてもらってよかったと思う同じことを、自分の子供にしてあげる」ことが教育の基礎になっている。
牛とロバを同じくびきにはめても、うまく畑を耕せないし、それどころか、2匹とも疲れてしまう。タルムードには、農夫が2匹を死なせてしまう説話がある。これが意味しているのは、個性の異なる子供らを、一律教育してもうまくいかないということだ。
特に歴史上迫害されてきたユダヤ人たちは、お金や物、不動産などいつも奪われる可能性があったことから、人生を切り開く知恵だけはきちんと受け継いできた。この財産だけは、誰にも奪うことはできないし、相続税もかからない。
「貧しい者に手を差しのべよ」というのは、ヘブライ聖書の基礎となる教えだ。ユダヤ教には「ツェダカ」という寄付の仕組みがあり、金持ちでも貧しくても、収入の10分の1を寄付することになっている。
そこには、お世話になった人への恩返し、社会還元の意味もある。マーク・ザッカーバーグやシェリル・サンドバーグが寄付活動に励むのには、そういうユダヤの系譜があるのかもしれない。そして、そうした相互扶助、助け合いの精神は、ユダヤ人たちの起業やチャレンジを後押ししているのは間違いない。
最後は聖書の一言で締めくくりたい。
(取材・文:森川潤、デザイン:砂田優花)
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