あぼうきゅうふ
とぼく
リッコクが滅んで、天下が統一された。蜀の山々から木が切り倒されて、代わりに阿房きゅうが出現した。
…
始皇帝が贅沢を好めば、民百姓も自分の家を富まそうと願う。なぜわずかのものまで取り立てながら、それを砂や泥のように浪費したのだ。
阿房きゅうの棟木を支える柱は、田畑を耕す百姓より多く、梁を支えるたる木は、機を織る工女より多く、屋根に打たれた釘がキラキラと輝く数は、倉のアワ粒より多く、瓦がうねっている筋の数は、身にまとう衣服の糸筋より多く、タテヨコの欄干は、帝国全土の城郭のそれより多く、鳴り響く楽器の音は、市場で語り合う人の言葉よりかまびすしい。
帝国全土の人々の、口を閉ざした代わりに怒りを買った。その声を聞かぬ始皇帝はただ一人、日増しにおごり高ぶり頑固になった。そんなある日、函谷関の守備兵が叫んで要塞が落ち、楚の軍勢に火を掛けられて、哀れにも阿房きゅうは焦土と化した。
ああ、リッコクを滅ぼしたのはリッコクだ、秦国ではない。秦の王族を皆殺しにしたのは秦だ、天下ではない。
ああ、リッコクがそれぞれの領民をいたわっていれば、秦の侵略を防げたのだ。秦がリッコク全ての人々をいたわっていれば、三代はもちろん、万世に渡って天下に君臨できたのだ、だれが王族をねだやしに出来たろうか。
秦は自分を嘆く暇も無く滅び去った、だから後世の人が憐れんだ。だが後世の人も秦の滅亡を教訓にしなかった。だから次々と王朝が滅び、繰り返しのちの世の人に憐れまれるのだ。
粟はsu
瓦がwa
阿房宮賦 杜牧 邱文苑 誦讀 https://youtu.be/FT7SUSUWT0A?si=X4WPJSjOf-SlMx3T @YouTubeより
https://hayaron.kyukyodo.work/fuki/tobokusi_aboukyuufu.html#google_vignette
杜牧之『阿房宮賦』・現代語訳
九去堂 2020.01.31
2022.11.05
原文
六王畢,四海一,蜀山兀,阿房出。
…
秦愛紛奢,人亦念其家。奈何取之盡錙銖,用之如泥沙?使負棟之柱,多於南畝之農夫;架樑之椽,多於機上之工女;釘頭磷磷,多於在庾之粟粒;瓦縫參差,多於周身之帛縷;直欄橫檻,多於九土之城郭;管絃嘔啞,多於市人之言語。使天下之人,不敢言而敢怒。獨夫之心,日益驕固。戍卒叫,函谷舉,楚人一炬,可憐焦土!
嗚呼!滅六國者六國也,非秦也;族秦者秦也,非天下也。嗟乎!使六國各愛其人,則足以拒秦;使秦復愛六國之人,則遞三世可至萬世而爲君,誰得而族滅也?秦人不暇自哀,而後人哀之;後人哀之而不鑑之,亦使後人而復哀後人也。
六国が滅んで、天下が統一された。蜀の山々から木が切り倒されて、代わりに阿房宮が出現した。
…
始皇帝が贅沢を好めば、民百姓も自分の家を富まそうと願う。なぜわずかのものまで取り立てながら、それを砂や泥のように浪費したのだ。
阿房宮の棟木を支える柱は、田畑を耕す百姓より多く、梁を支えるたる木は、機を織る工女より多く、屋根に打たれた釘がキラキラと輝く数は、倉のアワ粒より多く、瓦がうねっている筋の数は、身にまとう衣服の糸筋より多く、タテヨコの欄干は、帝国全土の城郭のそれより多く、鳴り響く楽器の音は、市場で語り合う人の言葉よりかまびすしい。
帝国全土の人々の、口を閉ざした代わりに怒りを買った。その声を聞かぬ始皇帝はただ一人、日増しにおごり高ぶり頑固になった。そんなある日、函谷関の守備兵が叫んで要塞が落ち、楚の軍勢に火を掛けられて、哀れにも阿房宮は焦土と化した。
ああ、六国を滅ぼしたのは六国だ、秦国ではない。秦の王族を皆殺しにしたのは秦だ、天下ではない。
ああ、六国がそれぞれの領民をいたわっていれば、秦の侵略を防げたのだ。秦が六国全ての人々をいたわっていれば、三代はもちろん、万世に渡って天下に君臨できたのだ、だれが王族を根絶やしに出来たろうか。
秦は自分を嘆く暇も無く滅び去った、だから後世の人が憐れんだ。だが後世の人も秦の滅亡を教訓にしなかった。だから次々と王朝が滅び、繰り返しのちの世の人に憐れまれるのだ。
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六国が滅んで、天下が統一された。蜀の山々から木が切り倒されて、代わりに阿房宮が出現した。大地を覆うこと三百余里、高くそびえて陽の光を隠す。驪山の北から始まり西に折れ、そのまま咸陽まで続いている。川がふたすじさらさらと、城壁内に流れ込んでいる。
本棚
五歩歩くたびに見晴らし台が一つ、十歩歩くごとに御殿が一つ。それらを回廊がゆったりと巡り、軒先が天高く突き出している。建物それぞれどっしりと建ち、それを中心に取り巻く回廊の屋根が、隣の屋根と角突き合わすように並んでいる。あるいはぐるりと蜂の巣のようでもあり、あるいはくねくねと渦のようだ。それらが並びそびえ立ち、区画がいくつあるか分からない。
宮殿と帝都咸陽を繋ぐ長橋は、渭水に横たわって龍のようだが、雲が無いから龍でない。橋を覆う回廊は、たわんで虹のようだが、晴れていないから虹でない。あるいは高くあるいは低い建物の群れは、入れば迷って東西が知れない。歌の舞台からは温かな声が響き、まるで春のぽかぽか陽気だ。踊りの舞台では振る袖が風に冷え、哀しげに風が吹き雨が降るようだ。だがこの景色は同じ日に、隣合う御殿で見えること。季節が揃わないこと甚だしい。
六国の貴婦人と王族は、揃って住まった宮殿から連れ出されて、車に乗せられ秦に来た。朝は歌を歌い夜は楽器を弾き、始皇帝に仕える宮女や芸人に成り下がった。
遠目に明星の輝くように見えるのは、宮女が化粧鏡を開けたのだ。緑の雲が乱れると見えたのは、宮女が結い髪に櫛を入れているのだ。渭水の川面にあぶらが広がっているのは、鬢付け油の残りを捨てたからだ。煙がたなびき霧が立ちこめるのは、高価なお香を焚いているのだ。突然雷が轟くのは、貴人の車が通り過ぎる音だ。ゴロゴロと車輪が遠く響き、その行く先ははるか遠くてわからない。
宮女たちは肌を磨き表情を整え、媚びの限りを尽くし美容を極めた。彼女があてがわれた宮殿の前にそっと立ち、じっと遠くを見ているのがなぜかと言えば、始皇帝のお目通りを願っているのだ。しかしさっぱりお越しの無い者も居て、その年月なんと三十六年。
燕・趙国が仕舞い込み、韓・魏国が作らせて、斉・楚国が選び抜いた宝の数々は、何世代何年にもわたって、その領民から取り立てて、積み重なって山のようになった。しかし滅亡の朝には略奪されて、阿房宮に運ばれた。だがあまりに莫大なため、鼎は鍋、青銅は土くれ、玉は石ころのように扱われて、荷車からこぼれたまま道に続き、秦の兵はそれに見向きもしなかった。
ああ全く、始皇帝一人の思いは、千万人もまた同じ事を思う。
始皇帝が贅沢を好めば、民百姓も自分の家を富まそうと願う。なぜわずかのものまで取り立てながら、それを砂や泥のように浪費したのだ。
阿房宮の棟木を支える柱は、田畑を耕す百姓より多く、梁を支えるたる木は、機を織る工女より多く、屋根に打たれた釘がキラキラと輝く数は、倉のアワ粒より多く、瓦がうねっている筋の数は、身にまとう衣服の糸筋より多く、タテヨコの欄干は、帝国全土の城郭のそれより多く、鳴り響く楽器の音は、市場で語り合う人の言葉よりかまびすしい。
帝国全土の人々の、口を閉ざした代わりに怒りを買った。その声を聞かぬ始皇帝はただ一人、日増しにおごり高ぶり頑固になった。そんなある日、函谷関の守備兵が叫んで要塞が落ち、楚の軍勢に火を掛けられて、哀れにも阿房宮は焦土と化した。
ああ、六国を滅ぼしたのは六国だ、秦国ではない。秦の王族を皆殺しにしたのは秦だ、天下ではない。
ああ、六国がそれぞれの領民をいたわっていれば、秦の侵略を防げたのだ。秦が六国全ての人々をいたわっていれば、三代はもちろん、万世に渡って天下に君臨できたのだ、だれが王族を根絶やしに出来たろうか。
秦は自分を嘆く暇も無く滅び去った、だから後世の人が憐れんだ。だが後世の人も秦の滅亡を教訓にしなかった。だから次々と王朝が滅び、繰り返しのちの世の人に憐れまれるのだ。

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