役に立つ、とは思えない古典ねた 其の七
和歌の題詠のパターンに、「~に寄する恋」 というのがあります。
つまり風に寄せ、雲に寄せ、月に寄せて、恋心を詠うわけです。
変わったところだと、「石に寄する恋」 とか 「玉水に寄する恋」 とか。
石なら例えば、百人一首にとられている二条院讃岐の
・ わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾くまもなし
恋の涙で乾く間もない袖を、海中深く沈み引き潮にも現れない石に託して詠い、 「沖の石の讃岐」 と絶賛された一首です。
と、ここまでは王朝和歌の話。今日の本題の前ふりでして。
先日、大岡信さんの 『折々のうた』 を読んでいたら、江戸 狂歌の立役者、四方赤良 (よものあから = 蜀山人) のこんな歌にぶち当たりました。
題がまず 「鰻に寄する恋」 ・・・ってそんなモンに寄せるな;;
そこからしてツッコミどころ満載、しかし歌自体はすごく凝った作りです。
・ あなうなぎいづくの山のいもとせをさかれてのちに身をこがすとは
「あなうなぎ」 は当然 「鰻」 と、「あな憂 (あぁつらい)」 の掛詞。
「山のいも」 はつまり 「山芋」 のことですが、山芋が鰻に化けるという俗信 (があるそうな) を下敷きにして、鰻とは縁語の関係。
更に、「いもとせをさかれ」 で、「妹と背 (恋人同士)」 の仲を裂かれつつ、 鰻の背も裂かれていて (と言うことはこれ関東風ですね、関西は 腹側を裂く) 、恋に 「身をこがす」 一方で、鰻は焼かれ て焦げている…と。
どうです呆れるほどのこの技巧! でも馬鹿だろう?!
ま、そういうノリ、亭主は結構好きですけどね♪
実は此処まで、昨年…かと思ったら一昨年だよをい; の土用の丑の日に雑記アップした 文章ですが、最近読んだ本に、狂歌界の同じく大御所、唐衣橘洲 (からごろもきっしゅう) の 「花火に寄する恋」 が載っていて、これまた笑ったので追記しておきますv 鰻と並んで季節ものですしね♪
・ 物思へば川の花火も我身よりぽんと出たる玉やとぞみる
勿論元ネタは和泉式部の名歌、「物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞみる」。 それが一転して 「た~まや~~!!」 な世界に…(笑)
* 出典 『万載狂歌集』
* 参考 『折々のうた・第十集』 大岡信 (岩波新書)
『江戸諷詠散歩』 秋山忠弥 (文春新書)
* 鰻を扱った和歌を 他にも挙げてみました
(2006. 7.23)
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