(3)木綿の布 (『玉勝間』巻十二所収)
いにしへ木綿といひし物は、穀の木の皮にて、そを布に織たりし事、古はあまねく
常の事なりしを、中むかしよりこなたには、紙にのみ造りて、布におることは、絶た
りとおぼえたりしに、今の世にも、阿波ノ国に、太布といひて、穀の木の皮を糸にし
て織れる布有、色白くいとつよし、洗ひても、のりをつくることなく、洗ふたびごと
に、いよく白くきよらになるとぞ、此事、出雲ノ国の千家ノ清主のもとより、ちかき
ほど、書のついでに、いひおこせて、かの国より得たりとて、そのちひさきさいでを、
見せにおこせられたるを見るに、げにいとかたく、色しろくきよらなる布にぞ有ける、
こはかの阿波ノ国人に、なほよく尋ねあきらめまほしきこと也、又これを思へば、他
の国々にも、あるところ有べきを、ひろくたづねしらまほしきわざなりかし、
(3)木綿の布
大昔、木綿といったものは、穀(かじ)の木の皮で、それを織って布にすることは、
昔はどこでも普通のことだったのだが、中昔からこちらは、紙を作るだけで、布に織
ることはなくなったと記憶していたのに、現在でも阿波の国(徳島県)では、太布(
たふ)といって、カジノキの木の皮を糸にして織る布がある。これは、色が白くてた
いへん丈夫である。洗うときも、糊をつけなくても、洗うごとにますます白くうつく
しくなるのである。このことは、出雲の国(島根県の一部)の千家ノ清主から、最近
手紙のついでに教えてもらって、阿波の国から入手したといって、その太布のちいさ
い切れ端を見せてくれた。それを見るとたいへん丈夫で、色は白く美しい布であった。
この作り方は、阿波の国の人に、もっとくわしく尋ねてはっきりさせてみたいことで
ある。また、これから考えてみると、他の地方にもこういう布を作るところがあるは
ずで、広く尋ねて知りたいと思う技術であることだ。
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