2025年11月14日金曜日

第二話 裸島


https://www.iida-museum.org/user/art/labo/2wa.htm
実は、芙蓉が描きながら、今は橋脚となっている島がもうひとつある。大鳴門橋の橋桁となっている裸島である。鳴門第一の名所、渦潮が発生する鳴門海峡に位置する裸島は、芙蓉の「鳴門十二勝真景図」の中でも重要ポイントとして位置づけられ、二図の景観に描かれる他、芙蓉自身が島に渡りここからの景観も二図描いている。この島については、地図でのシュミレーションの段階で、すでに橋脚になっていることは分かっていたが、その状況を見るため島を望める鳴門公園へと向かった。
 鳴門公園は、大鳴門橋のほぼたもと近くにある。鳴門海峡に面する景勝の地で、現在は海峡に懸かる堂々たる橋を間近に実感できる場所でもある。展望台に出て眼下に目を落とせば、直下に芙蓉が「鳴門中流」として描いた急流が轟音を立てていた。芙蓉の絵では、海ではありながら川のような急流が描かれ、誇張表現がなされいるものと考えていたが、それはとんだ勝手な誤解で、実際も海でありながら豪雨の後の川のごとく激流が逆巻いていた。
 その対岸に視線を移すと、頑強そうな橋桁が土台にしている島があった。裸島である。かつては渦潮とともに景勝の一部となっていたはずの島であるが、いまは見る影もなく大鳴門橋の一部となってしまっている。時の流れは名勝の景観をも近代的な趣に変えてしまっていたのだ。
 橋の開通により、徳島への交通の便が格段にアップし、再び鳴門の地が観光地として復権したのでもあるから、この現象を負の遺産と簡単に片づけるのは大人気ないし、大鳴門橋の懸かる海も、現代を代表する美しい景観だと思う。しかし、目の前に展開する芙蓉の時代とは変わり果てた景観に、多少の感慨は抱かざるを得ない。裸島前方の急流に一隻の小舟が棹をさしている。芙蓉もこの激流を越えて裸島に降り立ったのであろう。今は島の上の高速道路をわずか数秒で自動車は通り越していく。 (槇村)

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