アマテラスとスサノオの誓約
第七段一書(第三)
素戔嗚尊は自身の田が悪田だったため、姉の田の畔を壊したり溝を埋めたりする乱暴を働いたが、姉の日神は素戔嗚尊を咎めることなく、天石窟(あまのいはや)に籠もってしまった。
天児屋命らの働きにより日神は外に戻ったが、諸神は素戔嗚尊を責めた。素戔嗚尊は底根之国(そこつねのくに)に追放されることになったが、「どうして我が姉上に会わずに、勝手に一人で去れるだろうか」と天に戻って来た。天鈿女命がこれを見て日神に報告した。
日神は「弟が来た理由は良い心によってではあるまい。きっと我が国を奪おうというのだ。」と言って武装した。素戔嗚尊は誓(うけ)ひて「私が善からぬことを思って戻って来たのならば、私が今珠を囓んで生む子は必ず女であろう。そうしたら、女子を葦原中国に降してほしい。もし清い心があれば、必ず男を生むであろう。そうしたら、男子に天上を治めさせてほしい。また姉上の生む子も、この誓(うけひ)と同じとしよう。」と言った。
先に日神は十握劒を囓み、云云(しかしかいふ、省略の意)。
続いて素戔嗚尊はぐるぐると回しながら、その髻に巻いていた五百箇御統之瓊(いほつのみすまるのたま)の緒を解き、玉の音を揺り鳴らしながら天渟名井の水で濯ぎ浮かべた。その玉の端を噛んで以下の六柱の男神を生んだ。
- 左の髻に巻いていた玉を噛んで、左の手のひらに置く:正哉吾勝勝速日天忍穂根尊(まさかあかつかちはやひあまのおしほねのみこと)
- 右の玉を噛んで、右の手のひらに置く:天穂日命(あまのほひのみこと)
- 次に:天津彦根命(あまつひこねのみこと)
- 次に:活目津彦根命(いくめつひこねのみこと)
- 次に:熯速日命(ひのはやひのみこと)
- 次に:熊野大角命(くまののおほくまのみこと)
素戔嗚尊は「私は本当に清き心をもって戻って来たのです。既に姉上にお会いする目的は済んだので、根国へ参ります。私が清き心を以て生んだ子を、姉上に奉ります。」と言って降っていった。[6]
解説
| 文献 | うけいの提案者 | 結果 | モノザネ | 勝利基準、宣言者 | 男神をアマテラスのものとしたか、理由 |
|---|---|---|---|---|---|
| 古事記 | スサノヲ | ス:男 | アの珠 | 事後、ス、女 | ○、アマテラスがモノザネ主張 |
| 日本書紀第六段本文 | スサノヲ | ス:男 | アの御統 | 事前、ス、男 | ○、アマテラスがモノザネ主張 |
| 日本書紀第六段一書(第一) | アマテラス | ス:男 | スの御統 | 事前、ア、男 | × |
| 日本書紀第六段一書(第二) | スサノヲ | ス:男 | アの剣 | 事前、ス、男 | ?(結末は省略) |
| 日本書紀第六段一書(第三) | アマテラス | ス:男 | スの統の瓊 | 事前、ア、男 | ○、アマテラスが男ならば日神の子とすると予め誓約 |
| 日本書紀第七段一書(第三) | スサノヲ | ス:男 | スの統の瓊 | 事前、ス、男 | ○、スサノヲが男ならば天上を治めさせてほしいと予め誓い |
| 古語拾遺 | - | 男 | スの曲玉 | ? | ○ |
『古事記』ではアマテラスは、後に生まれた男神は自分の物から生まれたから自分の子として引き取り、先に生まれた女神はスサノヲの物から生まれたから彼の子だと宣言した。建速須佐之男命は自分の心が潔白だから私の子は優しい女神だったといい、天照大御神は彼を許した[8]。『古事記』と『日本書紀』第六段本文には、アマテラスが「モノザネ」を主張して男神を自身の子とするなど共通点が多いが、『古事記』では事前の勝利基準提示がなく、アマテラスがモノザネを主張した後でさらにスサノヲが「女=勝ち」という基準を突然提示することで勝利を収めている点に特徴がある[9]。『日本書紀』において「男=勝ち」という基準が共通していることからすれば、『古事記』における二神の基準も「男=勝ち」というものだったはずであり、だからこそアマテラスは事後に「モノザネ」を主張し互いの子を逆転させたのだと理解できる。だがスサノヲは事前に基準が提示されていなかったことを利用し、基準を逆転させ「女=勝ち」として勝利してしまったのである[10]。
『日本書紀』第一と第三の一書では男神なら勝ちとし、物実を交換せずに子を生んでいる。すなわち、アマテラスは十拳剣から女神を生み、スサノヲは自分の勾玉から男神を生んで彼が勝ったとする(第三の一書で、スサノヲは六柱の男神を生んでいる)。第二の一書では、男神なら勝ちとしている他は『古事記』と同じだが、どちらをどちらの子としたかは記載がない。『古事記』と同様に物実の持ち主の子とするならば天照大神の勝ちとなる。
なお、『古事記』でスサノヲが勝ったとされる一方で、創造された子神の数はスサノヲが3柱であるのに対してアマテラスは5柱であった。
また、日本全国にある天真名井神社、八王子神社などでは、宗像三女神と、王子五柱の男神を五男三女神として祀る。




















